3年後、あの約束の続き
俺たちが庭の縁側に座ると‐女の子が杜若の花壇の中から隠れるようにこっちを見ていた。
警戒してているように、俺を見ている。

「エミちゃん、杜若ダメになっちゃうわよ」

ばあばが笑いながらそう言うと、慌てて飛び出て母親の後ろに隠れた。
その様子がすごく可笑しかったのを、今でも覚えている。


「エミちゃん、同い年の章くんだって。仲良くしてね」
彼女の母親がせかすように俺の前に連れてくる。

すると彼女は‐右手に持っている花を俺に差し出した。


「仲良くしてね。プレゼント」


さっきの警戒していた表情とは違って、満面の笑みで彼女は俺に笑いかけた。


彼女が差し出した花は‐杜若の花。


庭で今年1番最初に咲いた、杜若。

「どうしても『ばあば様に!!』って聞かなかったのよ」
彼女の母親はくすっと笑いながら、そう言った。



思えばこの時、母親が出ていって初めて笑えた瞬間だった。
心の氷が、ようやく溶け始めるのを感じていた。
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