3年後、あの約束の続き
「君の翻訳はすごいね。ここ数年で売上が上がったのも、君がカタログの翻訳を改変したやつを配布したからだと聞いているよ」
食べ終わった章は、私が翻訳した冊子を見ている。

「さすがに外部の人や日本人以外の翻訳だと・・・何か変ですからね」

「確かに。ノルウェー語から英語は簡単なんだけど」
ノルウェーの人は英語が大分得意らしい。
うちのカタログもノルウェー語と英語が同時に仕上がるのだ。


「でも翻訳は瀬崎さんの方が得意でしょう?ずっと海外暮らしなら」

「そうだけど、日本語訳だとまた違った難しさはあるよ」

少し微笑んで、また冊子を見る。


「昔さ、日本人の子とメールしてたんだ。英語でね。向こうの携帯電話だと日本語ができないからね」

そうなんですか、と何でもないフリをする。

「例えば街に雪が深々と降る美しさとか、春に草花が芽吹く様子とか・・・英語では、どうしても伝え切れないんだ。
日本人の感性に合わせるとね」

私も苦労していたが・・・章も苦労していたんだろうか。


「渡辺さん、努力するのは素晴らしいし、努力する君の姿は好きだよ。
でも、たまには頼ってよ。頼られて嫌いな男は居ないんだから」
そう言って章は未翻訳4ページ分を取り上げて、自分の席に座った。

そして「直訳はするから、改変お願いね」
そう言ってさっさと翻訳をし始めた。


‐やっぱり章は、私のヒーローなのだ。
苦しいぐらいにも。
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