穴・あな
「あけようよ、ピアス。同じところに。」
私は、少しだけ血が滲んだ、耳たぶの上部を指差した。

「や、やらないよ。ごめんって、言ったじゃないか・・・」
彼が目を泳がせる。
私は彼の前で膝をついて、ピアッサーを握ったままの彼の手をとり、私の耳の、さっきと同じところをピアッサーで挟んだ。
私の耳はピアッサーに挟まれ、プラスチックを持つ彼の手は、私の手に挟まれている。
「ごめんって!いやだ・・・やりたく、ないんだ・・・」
時折、声が裏返るほど脅えている、可哀想な、愛しい彼。

彼の手には、ほとんど力が入っていない。
切り傷から少しだけでている血を見たせいだろうか。
以前、血を見ると手が痺れる、と彼から聞いたことがある。

「好きだよ、大好き。」
私は彼の名前を読んで、指に力を入れた。
針が、耳の軟骨に食い込む。
「・・・・・!!!」
彼が声にならない声をあげる。

ガシャン

泣きそうに荒い呼吸を繰り返す彼を見ながら、私は痛みを噛み締めた。
この、感覚。

精神的に、こんなに濃密な時間を過ごしたのははじめてだった。
私も、おそらく彼も。


そして私は、ただでさえギリギリの彼を、いっそう追い詰めるようなことを耳打ちした。


「次は、きみの番だよ。」
息をのむ音が聞こえ、彼の首筋が粟立つ。


すべてが終わる頃には、彼は、とろけきった目で私を見ていた。
そういえば彼はマゾだった。
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