穴・あな
ひとしきり笑うと、麻美子ちゃんが何かに気づいた。
「なに?この音。」

・・・ポ・・・・・ポーン、ピンポーン。

「あ、インターフォン!もしかしてずっと鳴ってた!?」
私は慌てて玄関に出て行った。

みんなが帰る前、沙智恵ちゃんがうちに泊まると言っていたのを思い出したからだ。
沙智恵ちゃんは泊まる予定ではなかったけど、沙智恵ちゃんのアパートは私のアパートから近いので、着替えを持ってまた来る、と言っていたのだ。

玄関のドアを開けると、待ちくたびれた沙智恵ちゃんが、いるはずだった。
しかしそこには誰もいなかった。

「・・・?」
私が身を乗り出すと、ドアノブを持つ手を誰かにつかまれ、部屋から引っ張り出された。「誰か」は、ドアの影に隠れていたのだ。

「誰か」はドアを閉め、私をドアに押し付けた。
「誰か」と私は向かい合ったが、アパートの廊下の電球が切れているので、その人の顔は見えない。

・・・前言撤回。生きている人間の方が怖い。


声を出して麻美子ちゃんを呼ぼうと息を吸い込んだその時、

「なーんちゃって!びっくりした?」

沙智恵ちゃんの声だ。

「よかった・・・びっくりしたよ!そりゃね!」
ドアに押さえつけられながら、私はゆっくりと息を吐いた。

「中で麻美子ちゃんも待っ・・・」
私の言葉は途中でさえぎられた。
沙智恵ちゃんの、唇で。

人間は、本当に驚いたときは、声も出ないと知った。

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