穴・あな
沙智恵ちゃんの唇が私から離れる。

「なん・・・沙智恵ちゃ・・・・え?」
やっと言葉を搾り出したが、上手くしゃべれない。

「ふふ、宣戦布告、だよ。」
沙智恵ちゃんはクスクス笑い、私の手を引いて部屋に入った。

「あ、沙智恵ちゃんだったのかぁ。なかなか来ないから、ピンポンダッシュした人を追いかけてどっかに行ったのかと思ったよ!」
部屋でぬいぐるみを抱きかかえて待っていた麻美子ちゃんが笑いながら言った。

「どんなイメージ持たれてんの、優子。」
と、沙智恵ちゃんが笑う。

自己紹介が遅れたが、私の名前は佐藤優子だ。
私は、個性のない、この名前がコンプレックスだ。
しかも私は「優」れても、「優」しくもない。

それにしても沙智恵ちゃんは本当に何事もなかったかのように話す。

「はは・・・本当に、ね。失礼しちゃうわ!」
私なんて、なぜかオネエ言葉になってしまった。

「あ!これCMでやってた新しいゲームじゃん!」
沙智恵ちゃんは説明書にさっと目を通して、コントローラーを持った。

・・・私より上手い。妙な敗北感の中、私はベッドの上で、くっついて騒ぐ2人を見ていた。

その後も、寝るときも朝帰るときも沙智恵ちゃんは、私と麻美子ちゃんの間に入ってきた・・・ような気がする。



________

私と彼。

私と兄。

私と彼女。

いま、一番身近な友達の、麻美子ちゃんと沙智恵ちゃんの2人。



ふたりと、ふたりと、ふたりと、ふたり。
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