穴・あな
右耳が あつい。



彼女は今日、東京に行った。

昨日ピアッシングをした、彼女の部屋はきれいに片付いていた。というより物がほとんどなかった。

すぐにでも引っ越す準備ができていることに、気づかないふりをした。

春から彼女は東京の学校に通うことになった。


彼女とは生まれたときから一緒だった。

高校は違う学校だった。私はなんとなくで決めたが、彼女は高校入学のときには夢を見据えていた。

私は高校で見つけた夢も、自分に言い訳をしてあきらめた。
絵に関わる仕事ができたら、幸せだろうな、と思う自分に嘘をついた。


彼女は夢を追うのではなく、夢に向かって確実に距離を狭めていた。
まっすぐ夢に進む彼女がまぶしくて、近くにいてはいけない気がした。


だから、遠ざけた。好きなのに。



昨日あけた右耳のピアスホールはふさぐことにした。

私はこれから大学受験だった。
穴のあいた耳が、面接官に見えるかもしれない。



もしかして私は、そのピアスホールに、何らかの意味を持たせたくなかったのかもしれない。

別れの、あるいは成長の。



ふさごうとした穴は治りが悪く、前期試験日直前にやっとふさがった。

前期は落ちた。なんとなく後期も同じ大学を受けたら、点数配分が後期は違ったようで、なんとか合格していた。


後期試験の合格発表の頃には、右耳の、ピアスホールは痕も残さずに消えていた。
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