穴・あな

お揃い

ガシャ


「あれ、今の何の音?」
兄がリビングに入ってきた。
私が買ってきたチョコレートを食べながら。
兄の為に買ってきたものだから別にいいのだが。

兄が食べているのは、私が好きで、いつも食べていたチョコレート菓子の『淡雪』だ。
それをパンやクッキーに乗せ、電子レンジに10秒かけると、たちまちチョコレートが染み込む。そのために作られたお菓子なのに、兄はそれをそのまま食べるのが好きだと言う。


「ピアス、開けてんの。」
鏡を見ながらの作業なので、兄の顔を見ずに答えた。

ふぅん、と言って近づいてきて、兄は私の顔を覗き込んだ。
「献血できなくなるから、ピアスはあけないんじゃなかったのか?」
私は、いいの、と呟いた。


私は献血が好きだ。

血が見れるし、あの太い針が刺さる緊張感、一瞬の痛み、手の痺れ。
しかも、高額で取引されるはずの血液を無償で提供する代わりに、いいことをしているという気持ちよさも同時にいただける。

だが、このときの私は、注射針よりピアスを刺したかった。それだけだ。


複雑な気持ちで、もう片方の耳にも穴を空ける。


カシャ


「あーあ、失敗しただろお前。」
と、兄が私を馬鹿にする。


鏡で左右の穴の位置を比べると、最初にあけた右の穴より左の穴が、ずいぶん上のほうにあいてしまった。
「いいよ、もう1回やるから。」

幸い、予備に買った針がまだある。
針を出している最中も、さっきの痛みを思い出す。
思わず口元が緩んでしまうのを、兄がニヤニヤしながら見てくる。

「癖になるよな、その痛み。」


・・・兄も同類だった。ちなみに私達は、ちょっと異常なほど仲の良いきょうだいである。
自他共に認めるシスコンとブラコンだ。

「まぁね…とんだ変態兄妹だね。」
私はそう言って、ピアッサーのピストンに指をかけた。


ガシャッ


「そうだな。愛してるぞ、妹よ。」
兄は、溶けたチョコレートで汚れた指を舐めて言った。
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