穴・あな
「失敗したとこ、痛そうだな。」
シークレットピアスを、針もろとも引き抜いた穴から、血が滲んでいる。

兄はそれを羨ましそうに見ながら、ガサガサと『淡雪』の袋の中を探る。
「あ、最後の1個だ。ごめん、お前が買ってきたのに。食べる?」
申し訳なさそうにチョコレートを差し出しつつも、名残惜しそうにそれを見つめる兄。
いつまでたっても可愛い兄だ。

私は脱脂綿に消毒液を染み込ませながら、今年で21歳の彼に言った。
「いいよ。兄ちゃんの為に買ってきたやつだから。好きでしょ?それ。」
兄は、うん!と言って、最後の1個を口に放り込んだ。

「お菓子でご機嫌とか・・・兄ちゃんは何歳児だよ。」
消毒を終えた私は、ようやく鏡から目を離して、兄を振り向いて問う。

「21歳児!!」
兄は指を2本突き出し、元気よく答えてくれた。

「今度、ピアス買ってくるよ。1つずつ、同じところにつけようぜ。」
お菓子のお礼にしては気前がいい。居酒屋のバイトはそんなに儲かるものなのか、と思いながら私は、うん、と賛同した。

「いいね。今度一緒に買いに行こうね。・・・でもお揃いのピアスって、仲良し過ぎない?」
ニヤニヤしながら、恋人並みじゃん、続けると、
「まぁ、実際、仲良すぎだし。いいんじゃないか?」
と、兄もニヤニヤして言った。


いつも、こんな感じ。

私は、兄が、大好きです。

ただし、彼女への愛も、彼への愛も、兄への愛も、それぞれ別物なのです。
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