穴・あな
「うわ、3つもあけたんだ、ピアス。」
彼が、私の耳を物珍しそうに見つめる。恐る恐るピアスに触る指がくすぐったい。

今日は彼の家で、彼にピアッシングをしてあげることにしていた。
臆病者の彼は、まだ覚悟がつかないらしく、準備が整ってから30分は2人でうだうだしている。

「可愛いでしょ、このピアス。あ、こっちはね、兄ちゃんとお揃いなんだ。」
柄にもなく、ちょっとはしゃいで言うと、
「へえ・・・」
と、そっけなく返された。
俺とお揃いで買ったストラップは、すぐになくしたくせに・・・とでも言いたそうな顔だ。

いや、近年稀に見る人格者で、怒った顔なんて誰も知らない彼だ。それくらいで拗ねるひとじゃない、と自己完結した直後、急に目の前に天井が。

「きみが私を無理やり押し倒すなんて成長し・・・」
「茶化すなよ。」
彼が他人の言葉を遮って話すなんて珍しい。聞いてあげようじゃないか。

私が黙ると、彼は黙ってピアッサーで私の耳たぶの上部を挟もうとする。
「ちょっ・・・と待って、それは軟骨用じゃない・・・よ!」
と言って彼の体を押しのけようとするが、無駄だった。
細く見えたのに、なんだこの胸板は。こいつはゴリラか!

「へぇ、軟骨用とかあるんだ。」
感心しつつも、彼は手を止めない。普段は大人しいひとがキレると何するかわからない、というのはこれか。

「意外と着痩せするんだね、きみ。ゴリラみたい!キレると怖い!」
焦って思考が口からだだ漏れになるが、その間も、手で彼の体を押し返す。

「暴れないで、耳たぶの内側に刺しちゃったら大変だろ。」
聞いたことのないほど低い声で彼が呟く。
・・・そんなふうに言われたら、じっとするしかないではないか。


ピアス穴が増えるのはかまわないが、さっきからやられっぱなしで納得がいかない。

そろそろ反撃だ。
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