穴・あな
私は暴れるのをやめ、静かに息を吐き、彼の目を見据えた。
目が座ってる、と以前言われたことがあるが、この時の私もそういう目をしていたと思う。

予想外の行動に、彼がたじろく。
「もう抵抗しないの?」
と聞く彼に、
「ぐだぐだ言ってないで早くやれば?やらないの?」
と返した。

彼は戸惑った顔で、
「いいの?」
と言うのに対して私は、
「質問を質問で返さないで。」
と言った。すると彼は、ごめん、と呟き下を向いた。
私が先に質問を質問を返したのに気付いていない。
完全にこっちのペースにもちこんだ証拠だ。

精神的には相手を攻めながら、肉体的な痛みを享受できるかもしれない。
そう考えると、背筋が、ぞくり、とした。

彼の手が震えている。震える指が少しだけピストンを押し、針の先が少しだけ皮膚に触れる。
「早く!やりたいんでしょ?私の耳の皮膚と軟骨を針で貫通させたいんでしょ?」
私がそうたたみかけると彼は、
「ぅうわああああ!!」
と声を裏返させて言い、私から離れた。彼がピアッサーを持ったまま動いたせいで針の先がすべり、耳の皮膚が浅く切れた。

「ごめん、俺がどうかしてた。君のお兄さんに嫉妬してたんだ。謝って許されることじゃないと思うけど・・・本当にごめん。」
彼が頭を下げた。
このひとは、何を、勘違いしているのだろうか?

「ねえ、お揃いが、羨ましかったんでしょ?」
私は、薄く微笑みながら彼に近づいた。嫌な予感しかしないのだろう、彼は後ずさりして、背中を壁にぶつけた。
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