あなたを好きにならないための三箇条
イケメンになりたい
「…暗っ」
「お前が寝過ぎなの」
はぁ、と重たいカバンを手に
街灯の灯る道を歩く
〜
あのあと、時計を見て絶句した
『嘘っ。七時半!?』
『お前が倒れて寝っぱなしだったからだね』
〜
「で、家どこ?」
私のため息も気にせず彼は私の数歩先を歩いていく
…私の、彼氏が。
「…いや、私が送ってくよ」
いつも女子たちに向ける笑顔を彼に向ける
と、
「うぇ…キモ」
ドン引きしたように青い顔で見られて私も、彼も足が止まった
「はぁ!?!?」
どさりと鈍い音を立てて手からカバンが落ちる
動揺してしまった。
恥ずかしくて顔が熱い
別におかしいこと、してないよね…?
いや、していない。
だって漫画ではイケメンな彼氏が家まで送ってく手筈だから。
それにいつも女子たちは喜んで「ありがとう」と微笑んでくれるのだから。
「…どうして…!」
きっと真っ赤に染まっているであろう顔でぎゅっと握り拳を作って聞けば彼は呆れたように「…はぁ。」と深いため息をつく。
勇気を出して聞いた質問をそのように返されて余計に恥ずかしくなった
どうして?
家まで送っていくのが普通でしょ?!
すると数歩先にいた彼がくるりと踵を返して…
私の頭の上に軽く手を置いた
「…ばーか。彼氏はお前じゃない、俺なの。
カッコつけるのは俺の役目」
私を貶すような言葉なのに
頭に触れる手も声も優しくて。
あり得ないことだけど胸のあたりがキュゥと苦しくなった
「…ん。」
頷くと彼はニヤリと笑んでまた私の前を歩く
彼の手は大きかった
私の手なんかよりもずっと。
カッコつけるのは彼氏の役目、か…
…そっか…。
私は、彼にとったら“女”なんだ。
“彼女”
なんだ…
…ばーか。
だから、男ってほんと
だいきらい
赤い顔を隠すようにしながら私は彼の背中を追いかけた