あなたを好きにならないための三箇条
利害一致。
彼女の言った言葉はあまりに正しい
俺たちの関係はびっくりするほど整ったバランスの上に成り立っている。
ブロック塀を1ミリの狂いなく積み上げて強大な壁を作ったような関係。
それは多分互いに今も引きずってしまうような過去があるからで
無意識のうちに同情と親近感を生んだのだろうか
それでも守りたいと思ったのは事実で
それが成せるならばこの関係も悪くないと思っている
俺はきっと彼女と付き合ったことを後悔しない。
結果がどうなろうと…。
「名前、初めて私の名前呼んだね」
ふっと彼女が微笑む
優しい笑み。
みんなはイケメンだと騒ぎ立てるけれど俺には目の前の彼女は“女の子”にしか見えない。
「嫌だった?」
苦笑いで聞けば彼女は首を振って俺を見つめた
「私はなんて呼べばいい?」
『歩み寄る』
とはこういう事だろうか?
ふと一瞬、間抜けな考えが頭をよぎった
…俺は、誰とも『歩み寄る』事をしたくなかったから。
幼い頃からいじめられっ子であった俺は
ずっとそばにいてくれた ヒト にかばわれている自分が情けなかった。
今度は俺が守ろうと売られた喧嘩は全部買って
あの人に近づく事を許さなかった
俺のまわりにはろくな人間がいないから
「ふぅ」と軽く息をついて現実に戻ってくる。
目の前の彼女が目を煌めかせて俺を見つめているから
俺はできる限りの優しい微笑みを作って
「“空”って呼んでよ」
と言った。
「…下の名前でいいの?」
途端に彼女が首をかしげる
女子が男を呼び捨てにすることは少ないのか。そうか。今、気づいた
それでも一度行った事を戻すのもなんだか癪だし
それに言おうと思っていたことがあったから…
「…付き合うんだから、それくらい いいでしょ?」
「そっか」
暫しの沈黙のあと 俺はゆっくりと口を開いた
「…ねぇ、ルールを決めよう」