あなたを好きにならないための三箇条

「…どこ行こっか」

彼–––– 一ノ瀬空はニコリと私に微笑む
そんな仕草までイケメンだ。



「…そうだね。映画、かな」



雨だし。ね

頭上に広がる薄黒い雲を見上げながら言うと空は私の手に触れた

「よし、行こう」

手首を握られぐっと強く引かれる





ドクンっ





〜〜

「やだ！やめて！」
『誰もこんなところに来ないよ。大人しくしなさい』

〜〜

『あの子、〇〇とできてるんだって。気持ちわるーい』
「違う…っ私は！」

〜〜

『友達だと思ってたのに！』

〜〜





ドクンっ




「嫌ぁっ！」



瞬間空の手を振り払った
本人は驚いたように目を見開く

…やだ。



「…っ…はは。ごめん、気にしないで」



全身が震える
背中に凍ったように冷たい汗がだくだくと流れている

膝が崩れ落ちて雨で濡れた地面に腰を落とした

「…あ、れ」

傘もいつの間にか手の中になく
雨は無情にも私の上に降り注ぐ




「…ごめん」




何かしてしまったのかと怪訝そうに自身の手を見つめながら

空は屈んで座り込む私と目線の高さを合わせた



彼は王子様のように私に手のひらを差し出す

きっと、起こしてくれようとしているのだ


雨に濡れた私を。



でも
その手が嫌だった



「…やめてっ」

肩を抱いて丸まって
どうにかして自分の心を落ち着かせようとする


わかってる

頭の中ではわかってはいるのだ


けれど…




「…ごめん。お願い、見ないで…」




溢れた言葉は
学校ではイケメンで通っているオレには
あまりにも不釣り合いな言葉だった