あなたを好きにならないための三箇条
一気に距離が近づいて顔が近くなる
グッと握り拳を握りしめた時…
「…一ノ瀬くん?」
曲がり角の向こうから1人の女子が顔を覗かせた。
ふわりとした柔らかそうな如何にも女の子っぽい少女だ。
「…はぁ、なに?今取り込み中なのわかんない?」
少女に“一ノ瀬くん”と呼ばれた現在私に壁ドンをかましている男はため息をついて低い声でその子を睨む
その目はあまりにも冷たくて…
私に向けられたわけでもないのに背筋がぞっと冷めた
殴ってやろうと握り拳を作ったのに
急な態度の変わりようと冷たい視線に驚き
私の右手は向かう先を失ってしまう
ヒトって、こんな目をすることができるのか…。
びっくりするほど低い声に少女は目を丸くして蛇に睨まれた蛙のように固まってしまう
「ほら、自分が邪魔だと思うならさっさと行きなよ」
くいっと顎で使われ
少女は数歩後ずさった
しかし、我に帰ったのか急に赤い顔をして叫ぶ
「私が告白しに来たの知ってるくせに…!
他の女子とイチャイチャしてるなんてあんたの方が失礼よ…っ」
…告白?
首を傾げて彼を見つめると
彼はまたその冷たい瞳を少女に向けた
「キミが告白しに来たとか、そんなの知ったこっちゃない。
なんでキミの呼び出しにわざわざ応えてあげたのに俺が怒られてるわけ?
来てあげたんだから彼女とイチャつくくらい許してくれるかな」
はぁ、と彼がため息をつくと
私と、そして少女も目を丸くして硬直した
か、彼女?
彼の言葉の意図がわからない
この男はなにを考えているのだ
「あ、まだ言ってなかったっけ?
こいつ、俺の彼女だから」
私を強引に追い詰め
漫画みたいな壁ドンを交わした男
そいつの指差した方向には私がいる
あまりの出来事に声が出ず青ざめる私に
彼は徐々にその顔を近づけた
互いの唇が触れる
ちゅっと淡い水音がして唇が離れると彼は私のリボンに手をかけた
そこで手を止めてまた少女を見つめる。
驚きで動けないでいるらしい少女にさらに追い討ちをかけるように
彼はニヤリと笑った
「まだ見てるつもり?可愛い顔して変態なんだね」
顔を一気に赤くした少女は
彼の言葉を聞いて怒りいっぱいに私たちに背を向けた