甘い囁き。
仕事を終え、帰宅した彼にいつものように駆け寄り、スーツの上着を預かる。
あまり目も合わせてくれない、会話も少ない。
これもいつも通りだけれど、今日はやけに寂しく感じる。
「何これ」
私がテーブルに置いておいた四角形のチョコの包みを見て、彼がそう尋ねる。
「チョコレートです。バレンタインなので」
彼に直接手渡そうと、机の上からチョコを手に取るけれど、やっぱりやめておけば良かったかなと今更ながらに後悔する。
だって、同棲しているというのに未だにこんなよそよそしい話し方しか出来ない私からチョコをもらったところで、彼は困るだけかもしれない。
ましてや、こんなチョコをきっかけに、あわよくば好きと言ってもらいたいなんて……。
だけど……
「バレンタインだからって、何で俺にチョコくれるの?」
だからって、恋人にそんな風に言われたら悲しくなる。