秘密の会議は土曜日に
「……以上がAIを活用したリスクマネジメントのベストプラクティスです。

本日は急な予定変更にも関わらず、ご清聴ありがとうございます。」


最新の技術を解説した講演は大きな拍手とともに終了した。高柳さんは事業部長という立場上、管理業務がメインの仕事だけど、講演の印象からもっと現場で技術者として働いていたいのかな……という気がした。


「なお講義の内容とは離れますが、コンプライアンス強化の取り組みについて資料を配布しています。

当社はセクハラ、パワハラ等に厳しく対処します。これは組織で企画される飲み会や接待など、酒の席についても同様なので。

発覚時には懲罰対象となるので各自確認するように。」


高柳さんが鋭い目付きでそう告げると、会議室がざわざわした。鴻上くんは隣の席で首を傾げている。


「酒の席のセクハラって、やけに具体的じゃね?やたらとおっかない顔してるし、昨日の飲みで何かあったのかな?」


「なななな何もやってないよ、私!」


「誰も理緒がハラスメントするとは思わねーよ。」


配布された資料には禁止事例として『みだりに衣服や体に触れること』『猥雑で不快な話題を強いること』『飲酒の強要』等……が載っている。


気のせいじゃなく、どれも身に覚えがあるような気がするけど……。


「万が一被害を受けた方は、ホットライン、または直接私までご連絡を。」


それだけ言うと、高柳さんは壇上から降りて会議室を後にした。昨晩のことを心配してくれたのかな……。


でも実際、昨日の糸井沢さんがセクハラだったかどうか私には分からない。私は上手く話せなかったし怖くて逃げたけど、相手が私じゃなければもっと楽しんで盛り上がっていたのかもしれないし。


その後もグループワークや研修メニューが続き、夕方には研修も終了した。終わってみればあっという間。


「俺、車で来たから帰り送ってってやるよ。」


「鴻上くん?ありがと、でも会社から交通費貰えるから新幹線で大丈夫だよー。」


修善寺から東京までの長距離を送ってもらうのは悪いので断ると、私を注意するように小声で告げられる。


「帰りに糸井沢に絡まれたら嫌でしょ。いいから言う通りにする!」


「りょ、了解。」


確かにそれは困る。鴻上くんに急かされるように帰り支度を済ませ、駐車場に向かう。
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