秘密の会議は土曜日に
「鴻上くん、ご配慮痛み入ります。」


助手席に座って、売店で買った温泉まんじゅうとホットのお茶を差し出す。


「礼とか要らないのに。

ぶっ。まんじゅうって、ばーさんみたいなセンスだな」


鴻上くんはその場で包装をばりばり破いておまんじゅうを口に入れた。


「こんなにたくさん食えねーから、理緒も食って帰れ」


「ではありがたく。自分の分はもう一箱買ってあるんだけどね」


ちなみに、ひどくご迷惑をかけたに違いない高柳さんの分も買ってある。土曜日に渡して、記憶の無い間にしでかした失態を土下座して謝るつもりだ。



「一人でこの量食うのかよ、すげーな……。

ってかさ、理緒はそんなにボケッとして今までどうやって生きてきたんだ?普通は、牽制したりガードしたり自然にするもんでしょ。」


「牽制?

野球か何かの話?」


おまんじゅうをパクつきながら質問すると、あからさまに哀れなものを見る目で見られた。


「そーだ、そーだ。盗塁阻止くらい女のたしなみだよな。

ってバーカ!乗り突っ込みさせんな。

お前の女子力の話だ。あと、糸井沢の話。」


「むぐっ!糸井沢さん……ちょっと苦手……」


「やっぱりな。

アイツはただでさえ女に手が早いんだから、お前みたいな態度取ってたらダメなんだよ。」


「私みたいな態度って、どういうこと?」


「お前って女としての壁が全然無いの。だから、『俺いけるんじゃね?』とか思われやすいんだよ。

触られそうになっても嫌がらないし、飲み会では余計なことまで答えたみたいだし。」


「ごめん、言ってることが全然わからないんだけど。」


鴻上くんは「駄目だ馬鹿が根深い」と頭を抱えた。さっきからずっと馬鹿にされてるのはさすがに私でもわかるんだよ……?


「早い話、お前と接した男が全員『もしかして俺に気があるかも』とか思われそうな態度なの。」


「まさか!そんな気味悪がられそうなことしてないよ!!」


恐ろしいことを言わないで欲しい。そんなことをしたら、職場で私と口を聞いてくれる人がいなくなってしまうに違いない。


「気味悪がられはしないと思うけど……、心配のしどころがズレてんなー。理緒には高度すぎる話だったか……。」


鴻上くんは眉間にシワを寄せてお茶を飲み干した。確かに私には理解できないから、高度な話というのは否定できない。


「ま、いいか。どっちにしろ俺が男避けになってやるよ。だからうちの会社にいる間は心配すんな。」


「男ヨケ……?

あ。もしかしてそれで私のこと『彼女』って?

私が糸井沢さんに絡まれないように、捨て身で私が彼女っていう汚名まで着て助けてくれたの!?

そんな、申し訳ない……どうお詫びしてよいやら……」


「そんなに深刻になるなって……。捨て身とか汚名とか言うようなもんじゃないから。」
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