秘密の会議は土曜日に
家の前につくと、鴻上くんはぽんぽんと頭を撫でて柔らかく笑った。


「困ったら俺を頼って良いから。近くにいれば呼んだらいいし、いなかったら『彼氏に怒られるから』って言っときゃなんとかなる。」


「そんなに頼ってばかりいたら悪いよ、回りの人が誤解しちゃうよ?」


「理緒が変なやつに絡まれたら俺が困るんだよ。昔好きだった女の子くらいちゃんと守りたいの。

それじゃ、おやすみ」



おやすみ、バイバイと手を振って、一呼吸おいてふと考える。

もし高柳さんが私と鴻上くんの仲を誤解したら悲しむかな。それとも、そんな心配は私の思い上がりかな。


でも……不思議なことに高柳さんは私を好きだと言ってくれたし、嘘みたいだけど、手渡された婚姻届は部屋のテーブルに乗っかっている。


「土曜日になったら念のため事情を説明しておこうかな……」


「どうでもいい」と言われそうな気もするけど、その場合は私が自分の思い上がりを反省するだけだ。高柳さんが悲しむ可能性を消せる方がずっといい。


「もう今日のところはさっさと寝よ!掃除は明日やればいいや」


今日は昨晩のいろんな衝撃でぐったりと疲れている。

本当はシャワーだけ浴びてベッドに倒れたいくらいだったけど、美容師さんの言い付けを守り、今日も髪にヘアオイルを塗って乾かした。眉毛も、整えて貰った状態をキープするように手入れしている。


「高柳さんの美人秘書は、もっと色々気を使ってるんだろうな……」


肌には寝不足でクマが浮かんでるし、よく見るとシミだってたくさんできている。肌のケアなんかしても元が私の顔なんだから意味無いと思うけど、婚姻届が目に入ると不思議と少しでもマシな状態にせねばという気がしてくる。

その日はいつもより少しだけ丁寧に肌に保湿剤を塗り込んで眠りについた。
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