秘密の会議は土曜日に
「すみません、ここ邪魔ですか?」
足音の勢いに押されるように場所を開けようとすると、ぐっと手首を掴まれた。
「邪魔が入らない場所で話がしたい。来てくれ」
「高……柳さん?」
急に現れた高柳さんに驚いていると、手を引かれて近くのミーティングスペースに連れていかれる。
そこは大きな窓から都内が一望できる開放的な部屋だった。雨が降っていなければ気持ちのいい陽射しが入ってきそうだけど、今は空が厚い雲に覆われ、窓には雨垂れが見える。
部屋ごとに区切られてはいるものの、いくつかのブースが並んでいて、隣の部屋からは商談の声が聞こえてきた。
「あのっ……」
高柳さんは席には座らずに私を窓際まで連れていき、真顔でじっと私を見つめる。そのせいか、さっき言いたいと思っていたことは全部頭の中から飛んでしまった。
「研修会の被害報告が上がってきてない。報告するように言ったろ。」
隣に聞こえないようにする配慮なのか、小声で囁かれた。
「え……」
糸井沢さんの誘いにかなり怖い思いをした翌日、高柳さんはハラスメントの対応について全員の前で釘を刺していた。あれは……私に被害者として報告してほしいという意味だったんだ。
「理緒から声をあげてくれないと、俺は何もしてやれないんだ。俺は遠くから理緒の姿を見て、悲鳴を聞いただけだから。」
「心配してくれてるんですか……。でも、あれがセクハラかどうか私にはわからなくて。」
「どう見ても十分セクハラだろ。そんな奴と一緒に理緒を働かせるわけにいかない。誰にやられた?」
「悪い人では、ない……と思います。処罰とか考えてるなら、名前は言えないですよ。」
やっとの思いでそう返すと、高柳さんの目付きが鋭くなる。
「また同じような目に合うかもしれないんだぞ。その時俺が側にいなかったら、守ってやることもできないんだ。」
怒っているように見えるけど、私のことを考えてくれてる。忙しいのに私のことなんかに気を配ってくれて……。でも、これ以上心配させてしまうのは申し訳ない。
「それなら鴻上くんが助けてくれるから、もう大丈夫です。」
高柳さんの眉根がきゅっと寄って、今日の空と同じような影が射した。窓に体ごと押し付けられて、視界の端にいくつもの雨粒が散る。
「カラダ目的のサルから逃げるために、本気で狙ってる狼に助けを求めるとか……理緒は馬鹿なの?」
「あの……」
私は高柳さんにこんな顔をさせたくないから、鴻上くんのことは土曜日にちゃんと説明しようと思っていたのだけど……。どうやら言い方を間違えてしまったら しい。
「ごめんなさい」
「何を謝ってる?」
「それは……」
そんな顔をさせてしまったこと。鴻上くんと私の噂をもし聞いていたなら否定しておきたいこと、酔って記憶が無い間のこと……色々ありすぎて言葉につまる。
考えてる間にも、隣の部屋からは「ご契約時期については……」「機能変更のご説明を……」などの商談の声が聞こえてきて、余計に頭が混乱した。
「理緒が心配ばかりさせるから、土曜まで気がもたない。」
足音の勢いに押されるように場所を開けようとすると、ぐっと手首を掴まれた。
「邪魔が入らない場所で話がしたい。来てくれ」
「高……柳さん?」
急に現れた高柳さんに驚いていると、手を引かれて近くのミーティングスペースに連れていかれる。
そこは大きな窓から都内が一望できる開放的な部屋だった。雨が降っていなければ気持ちのいい陽射しが入ってきそうだけど、今は空が厚い雲に覆われ、窓には雨垂れが見える。
部屋ごとに区切られてはいるものの、いくつかのブースが並んでいて、隣の部屋からは商談の声が聞こえてきた。
「あのっ……」
高柳さんは席には座らずに私を窓際まで連れていき、真顔でじっと私を見つめる。そのせいか、さっき言いたいと思っていたことは全部頭の中から飛んでしまった。
「研修会の被害報告が上がってきてない。報告するように言ったろ。」
隣に聞こえないようにする配慮なのか、小声で囁かれた。
「え……」
糸井沢さんの誘いにかなり怖い思いをした翌日、高柳さんはハラスメントの対応について全員の前で釘を刺していた。あれは……私に被害者として報告してほしいという意味だったんだ。
「理緒から声をあげてくれないと、俺は何もしてやれないんだ。俺は遠くから理緒の姿を見て、悲鳴を聞いただけだから。」
「心配してくれてるんですか……。でも、あれがセクハラかどうか私にはわからなくて。」
「どう見ても十分セクハラだろ。そんな奴と一緒に理緒を働かせるわけにいかない。誰にやられた?」
「悪い人では、ない……と思います。処罰とか考えてるなら、名前は言えないですよ。」
やっとの思いでそう返すと、高柳さんの目付きが鋭くなる。
「また同じような目に合うかもしれないんだぞ。その時俺が側にいなかったら、守ってやることもできないんだ。」
怒っているように見えるけど、私のことを考えてくれてる。忙しいのに私のことなんかに気を配ってくれて……。でも、これ以上心配させてしまうのは申し訳ない。
「それなら鴻上くんが助けてくれるから、もう大丈夫です。」
高柳さんの眉根がきゅっと寄って、今日の空と同じような影が射した。窓に体ごと押し付けられて、視界の端にいくつもの雨粒が散る。
「カラダ目的のサルから逃げるために、本気で狙ってる狼に助けを求めるとか……理緒は馬鹿なの?」
「あの……」
私は高柳さんにこんな顔をさせたくないから、鴻上くんのことは土曜日にちゃんと説明しようと思っていたのだけど……。どうやら言い方を間違えてしまったら しい。
「ごめんなさい」
「何を謝ってる?」
「それは……」
そんな顔をさせてしまったこと。鴻上くんと私の噂をもし聞いていたなら否定しておきたいこと、酔って記憶が無い間のこと……色々ありすぎて言葉につまる。
考えてる間にも、隣の部屋からは「ご契約時期については……」「機能変更のご説明を……」などの商談の声が聞こえてきて、余計に頭が混乱した。
「理緒が心配ばかりさせるから、土曜まで気がもたない。」