秘密の会議は土曜日に
花屋の店先で部屋に飾る花を選んでいると、
「あ。」
店内にいる高柳さんと目があった。
「おおお疲れさまで……じゃなくて、こんにちは」
「……花を買う予定なら、止めた方が良いかも」
花屋でそんなことを言ったら店員さんが気を悪くするんじゃ……と心配していると、店員さんは高柳さんに大きな花束を手渡した。鮮やかな赤いバラの花束は、高柳さんの上半身が隠れそうなくらい大きい。
「これは理緒に。先週は勢いでプロポーズしたけど、普通なら指輪とかを贈るものだったなと反省したんだ。指輪はサイズが分からないから、ひとまず花を。」
「え、……えぇ!?
こんな……大きすぎて、何本あるかわからないくらいの……」
「108本だよ」
「煩悩の数と同じ!?」
「ははっ、そうじゃなくて。
108本のバラには『結婚してください』って意味があるから。少し重いから後で受け取って。」
高柳さん、今、笑った……。
研修会や会社では決して見せなかった柔らかな表情。そういう笑顔を見るのはとても久しぶりな気がして、つい口を開けてぽかんとしてしまう。
高柳さんには話したり謝ったりしたいことがたくさんあるのに、またしても準備した言葉が出てこなくなった。
そう、研修会の時から高柳さんとはまともに話もできていないままなのだ。朝起きたら『禁酒』と書いてあるメモが残っていて、あんなキスをされて、すべてが混沌としたまま。
「理緒、その頬の傷は?」
高柳さんの目が、できたばかりの生傷に向いている。
「あぁ、これですか?今朝りっくんが不機嫌になっちゃって。無理矢理掃除した私がいけないんですけどね。」
そう返すと、ピタッと動きを止める。
「……待て。どんな理由があっても女性に手をあげていいわけがないだろ」
「え?」
悲しい映画でも見終わった後のように、呆然とした顔の高柳さん。
「『りっくん』て……添い寝がどうとか言ってた奴だな!?すぐに会わせろ。家にいるなら俺が直接話をつける!」
「わわ、待ってください、家にはいますけどりっくんは話が通じる相手じゃ……」
「話の通じない奴って、理緒はどんな危険な男と関わってるんだ!まさか同居してるのか?
そういえばいつかも食事を二人分買って帰ろうとしてたよな……!」
そんなことあったっけ……?
強く手を引かれて家に向かう。「違うから」と言っても、「現に怪我までしてるじゃないか」と急いで歩いていってしまう。
かくして……
「なーう なーう」
玄関を開けるなり、甘えん坊と化したりっくんが高柳さんの顔までよじ登って体をスリスリさせていた。
「あ。」
店内にいる高柳さんと目があった。
「おおお疲れさまで……じゃなくて、こんにちは」
「……花を買う予定なら、止めた方が良いかも」
花屋でそんなことを言ったら店員さんが気を悪くするんじゃ……と心配していると、店員さんは高柳さんに大きな花束を手渡した。鮮やかな赤いバラの花束は、高柳さんの上半身が隠れそうなくらい大きい。
「これは理緒に。先週は勢いでプロポーズしたけど、普通なら指輪とかを贈るものだったなと反省したんだ。指輪はサイズが分からないから、ひとまず花を。」
「え、……えぇ!?
こんな……大きすぎて、何本あるかわからないくらいの……」
「108本だよ」
「煩悩の数と同じ!?」
「ははっ、そうじゃなくて。
108本のバラには『結婚してください』って意味があるから。少し重いから後で受け取って。」
高柳さん、今、笑った……。
研修会や会社では決して見せなかった柔らかな表情。そういう笑顔を見るのはとても久しぶりな気がして、つい口を開けてぽかんとしてしまう。
高柳さんには話したり謝ったりしたいことがたくさんあるのに、またしても準備した言葉が出てこなくなった。
そう、研修会の時から高柳さんとはまともに話もできていないままなのだ。朝起きたら『禁酒』と書いてあるメモが残っていて、あんなキスをされて、すべてが混沌としたまま。
「理緒、その頬の傷は?」
高柳さんの目が、できたばかりの生傷に向いている。
「あぁ、これですか?今朝りっくんが不機嫌になっちゃって。無理矢理掃除した私がいけないんですけどね。」
そう返すと、ピタッと動きを止める。
「……待て。どんな理由があっても女性に手をあげていいわけがないだろ」
「え?」
悲しい映画でも見終わった後のように、呆然とした顔の高柳さん。
「『りっくん』て……添い寝がどうとか言ってた奴だな!?すぐに会わせろ。家にいるなら俺が直接話をつける!」
「わわ、待ってください、家にはいますけどりっくんは話が通じる相手じゃ……」
「話の通じない奴って、理緒はどんな危険な男と関わってるんだ!まさか同居してるのか?
そういえばいつかも食事を二人分買って帰ろうとしてたよな……!」
そんなことあったっけ……?
強く手を引かれて家に向かう。「違うから」と言っても、「現に怪我までしてるじゃないか」と急いで歩いていってしまう。
かくして……
「なーう なーう」
玄関を開けるなり、甘えん坊と化したりっくんが高柳さんの顔までよじ登って体をスリスリさせていた。