秘密の会議は土曜日に
「こら、りっくん!良い子にしてって言ったでしょう!」


ずっと顔にしがみいているので、引き剥がして床に下ろす。


「猫ならそうと……早く言って……」


りっくんに隠れていた高柳さんの眉は気まずそうに歪められていて、気のせいか少し顔も赤い気がする。


「ずっと違うって言ってたんですよ!高柳さんが聞いてくれなかったからっ。」


「……さっきから敬語だし、その呼び方も違うから。」


「あ、誤魔化した……!」


拗ねたように呟いて、ぷい、と横を向いた高柳さん。……失礼かもしれないけど、いつもと違う感じが凄く可愛い。


りっくんは高柳さんに構ってほしそうに体を擦り付け、「おいで」と抱えあげられると、満足そうに目を細めた。二人が仲良くしているところを見ると、きゅっと胸を締め付けられるような幸せを感じる。


……ずっと見ていたいけど、ぼんやりしてはいけない。とにかく謝らなければ。


「先日は、大変、とんでもなく、酷い失態をして本当にすみませんでしたっ!」


これはお詫びに、と温泉まんじゅうの箱を差し出して、手をついて謝る。


「昨日からずっと、理緒は何を謝ってるの?」


「あの、これは……研修会の夜にっ。酔って何をやらかしてしまったのかと……」


「あぁ、そのこと」と意味深に呟いた高柳さんは、温泉まんじゅうの箱を見て「こんなにたくさん、しかも俺も行った場所のお土産って」と笑った。


「あれは大変だった。外で迂闊に飲みすぎるなよ。」


「『禁酒』って書いてあったからもちろん飲んでないですけど……。私は一体何を?」


怒ってはいないようなので恐る恐る顔をあげると、床についた手に高柳さんの手が重ねられて、艶っぽく微笑まれる。


「教えない」


「い、意地悪ですね」


「記憶を飛ばすまで飲まされる理緒が悪い。あの日は本当に心配したんだ」


「すみません……。

あの、それからっ。高柳さんにはどうでもいいことかもしれませんが……

鴻上くんが、私の彼氏のフリをしてくれることになって。そしたら、無駄に誰かに絡まれることはないからって。」


「少しもどうでもよくなんか無いけど。そんなことで俺に安心しろって言ってる?」


「あの……実際に恋人というわけじゃないと、お伝えしたくて……。

勝手な言い分ですが、高柳さんにそう勘違いされると困るので。」


高柳さんの目が大きく見開かれて、ゆっくりと瞬きした。


「俺に誤解されたら困る?

何で困るか説明してよ。理緒の気持ちを教えてくれたら、全部許すから。」
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