秘密の会議は土曜日に
「それは……」


パンドラの箱が開いてしまったあの日から、当然のように胸に居座る気持ち。本当は自覚する前からそうだったのかも知れない。


でも、口に出すには崖から飛び降りるくらいの勇気がいる。


『お前みたいなネクラ、本気で好きになると思った?』


中学の時の思い出が喉に絡み付いて、声がうまく出せなくなる。


「…………っ」



…………認めない方がいいよ。認めなければ安全に生きていられるよ。私みたいな人間が恋愛なんて贅沢なものを望んだら最後、苦しくて辛いことばかりなんだから。



それでも。



胸に居座る貪欲なケモノのようなもう一人の私が、吠えるように「嫌だ」と叫んで……



「不相応を承知でっ、無遠慮なことを言いますと、

厚かましくも、お慕いしています」


私は自分の中のケモノに屈服した。顔から火が出そうなので、座ったまま床に手とおでこをつけて伏せる。


「……顔を、上げて」


「嫌です。今はひときわ酷い顔をしてるから」


頬が熱いし、涙目になってる。床にうずくまったままじっとしてると、頭の上にふわっと優しい手が乗り、髪を撫でられた。


「心配しなくても、理緒のどんな表情だって綺麗だ。

今の理緒の顔が見たい。俺を好きだと言ってくれた理緒の顔を見せて。」


頬に高柳さんの手が触れる。火照った顔がひんやりとして気持ちいい。


「……俺がどれだけ待っていたか分かる?

今、俺がどれほど嬉しいか。理緒は知らないだろ。」


声に滲んだ甘さに誘われるように体を起こすと、高柳さんは笑顔の前のような、泣き出す前のような、見たことのない表情をしていた。


「好きだ」


両方の手を繋いでじっと見つめられ、息がつまる。だめだ、胸がいっぱい過ぎてどうしていいか分からない。


「床につけたりするから、ここ、赤くなってるよ」


おでこに高柳さんの唇が触れた。背中に腕が回されて、高柳さんに体を引き寄せられる。体が近付くと、ふわっと涼しげな香りがした。


「『お慕いしてます』なんて言われたの初めてだ。きっと一生忘れないな。」


「すみませんっ。恥ずかしいのでいち早く記憶から消去してください……!」


「もう、無理。」


抱き締められ、「理緒も同じようにしてくれたら嬉しい」と私の手は高柳さんの肩に持っていかれた。


同じようにって……私も高柳さんをぎゅっとしていいんだろうか。


ドキドキしながら高柳さんの背中に手を回すと、あとはもう止められなかった。


気持ちのままに腕に力を込めると、同じように強く抱き締められる。幸せでクラクラするのに、なぜかもどかしい。


「……ん……」


好きな気持ちを体にぶつけると……こうなるって知らなかった。抱き合っていても、もっと近付きたい気持ちが勝ってつい力が入ってしまう。


「好きです」


「俺も好きだ。理緒が、好きだ」


もっと、もっと近くに。例えば、昨日の会議室みたいなキスを……



ん?


私は今、ものすごく欲張りなことを考えてなかった?
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