秘密の会議は土曜日に
うっかりして隣の部屋のドアを自分で開けてしまった。こっちは隠しておく予定だったのに!


「どうして?きれいに片付いてるけど」


「ここには高柳さんに引かれるものしかないからっ!」


部屋に入れないように両手を広げてふさぐ。けれど、そうやってみたところで身長差があるから、視界まではふさげないのが悲しい。


「でも、理緒らしい部屋だよ。引いたりしないから、中に入ってもいい?」


女らしくない機器満載の部屋を、私らしいと言われてしまった……。


「ううぅ」


「ほら、結婚したらどの道こんな隠し事はできなくなるし」


「結婚って……急にそんな……!」


「まさか俺がプロポーズしたの忘れてないよね?理緒も俺を好きなら、断る理由は無い筈だけど?」


返事ができずに固まっているうちに、高柳さんは奥の部屋に入ってしまう。


「ずいぶん仕事熱心だな……理緒の技術力も納得だ。DB、OS、それにネットワークの本か。

開発言語もベーシックなところから最近のものまで勉強してるんだな。」


「仕事には役に立たないものも多いから、殆ど趣味の領域です。本当に恥ずかしいからもうその辺で勘弁してください……。」


「いやこれは……、同業者として尊敬するよ。

それに、この部屋何だか落ち着くな。サーバでは何動かしてるの?」


2台ある業務用サーバは大きなファンの音を響かせている。起動していることはバレバレなので今さら「置いてあるだけ」とは言えない。


「仮想環境を立てて、検証用に使ってます。古いOSの環境とか……」


「こういうの見てると触りたくてウズウズする。コンソールのパスワード教えて」


引かれると思いきや、高柳さんはすっかり楽しんでいる様子でサーバを眺めてる。もうなるようになれと諦めてパスワードを入力すると、キラキラした目でサーバを操作していた。その顔はツンとすましている仕事中とは大違いだ。

意外と子供っぽい一面もあるんだな……。


「そうだ、理緒が好きそうだと思って持ってきたんだけど、この部屋には合うんじゃないかな。」


小さな卓上型カレンダーを手渡される。四月始まりのシンプルなデザインだけど、日付を見てびっくりした。


「凄い……ジュリアンデートで書いてある……!

こんなカレンダーがこの世にあるなんて!」


4月1日と書かれるべき場所に、「91/274」と、ジュリアンデートで表現された日付が書いてある。数字の意味は元旦から数えてその日が何日目かということと、今年は残り何日あるかを示している。


「うちの会社のノベルティーだから大したものじゃないよ。そんなに喜んで貰ってくれる人は理緒以外いないだろうな。」


クスクスと笑われて顔が赤くなった。ずっと前にこの日付書式が好きだと言ったことを、覚えてくれてたんだ。
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