秘密の会議は土曜日に
「んっ…

でも、結婚なんて自分には縁の無いものと思って生きてきたから、分からないことだらけで。

私なんかがしていいものかどうか」


「良い悪いじゃなくて。俺と一緒に暮らすことを想像してよ。

こうやって二人で過ごす時間が増えて、お互いをもっとよく知って……」


耳元で囁かれた後に耳朶まで噛まれて、体がびくんと震える。


「ふひゃっ……、あのっ、これじゃ何も考えられなくなりますから」


「それは大変だな、でも頑張って考えて」


「大変だなって……ぁ、……今その原因作ってるの高柳さんですよ?」


こんなに無責任な「大変だな」と「頑張って」は聞いたことない。高柳さんが首や鎖骨に唇をつけるので、その度にくすぐったくて体が跳ねて、当然のように思考力は消えていく。


「『高柳さん』じゃないだろ。

さっきからずっと敬語を使い続けてるけど、理緒はそんなに俺から罰を受けたいわけ?」


「ふぁ……違います、んっ、こればっかりはやっぱり無理で!ルールの撤回を、求めます!」


「仕方ないな……そんなに言うなら交換条件だ。

敬語には目を瞑るから、その代わり俺と一緒に住んで擬似的な結婚を試すこと」



「擬似的な、……結婚?」


意外な言葉に、ぽかんとして首を傾げる。


「分からないなら試せばいい。いわば検証環境だな。システムなら検証もせずにカットオーバーしたりしないだろ。」


「それは、そうですけど……」


「受けてくれるなら、今まで理緒が貯めに貯めたベナルティを免除してもいい。」


「う……」


今日は殆ど敬語で話してしまったから、何回分のペナルティが貯まっているのか想像するのも怖い。確かに、この条件には有り難く乗っておいた方が良いのかもしれない。


そこまで考えたとき、高柳さんはまるで私の思考を読み取ったように笑った。


「決まりだな。来週は『りっくん』もサーバも連れてうちに来たらいいよ。迎えに行くから」


その顔があまりにも嬉しそうなので、いつまでも目に焼き付いていた。
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