秘密の会議は土曜日に
袖を掴んで精一杯の言葉を伝えると、伏せた目が揺れたように見えた。


「あ」


よく考えてみれば、今だって二人で過ごしてる。ただ、私がしたかったのは二人きりじゃないとできないことで……。図らずもストレートにそう伝えてしまったと思うと恥ずかしくてたまらなくなった。


「そうだね、俺が迂闊だった。家に帰ろうか」


下を向いていたので宗一郎さんの表情はわからないけど、柔らかな声と絡めた指先が暖かい。


リビングで唇を重ねると、少しずつ姿勢が崩れて背中に白い花瓶が触れた。揺れたバラから、花びらがひらひらと落ちてくる。

私の部屋にあったときは巨大なオブジェのように存在を主張していたけど、宗一郎さんの家のリビングには丁度良く馴染む。


「……花はもう処分した方がいいよ。好きならまた買ってくるから」


「……ん……っ

こんな贅沢なものは、そうそう要りません、大丈夫です。

……でも、もう少し取っておきたいから。このまま置かせてください。」


毎日水を変えても、二週間が経過すると綺麗なバラは少しずつ枯れてきて、一部が茶色くなってきてる。それでもこの花束は捨てるのがもったいない。


バラを見ていたら、顔の向きを変えられて再び宗一郎さんの唇が触れた。


意識が溶けて、暖かな体温といい匂いに体を埋めて、これ以上の幸せは想像できないな、と思った。

これから二週間はこんなふうにはできないんだ。そう思うと出張の期間は果てしなく長い。


「ん……

あの、宗一郎さんが居ない間も、私がここに住んでていいんですか?」


「もちろん、そのつもりで来てもらったんだ。俺と結婚する気になってくれたら残りの家具とか荷物も移動して、本格的に引っ越したらいいよ。」


「はい……」


「やっぱり、まだ迷ってる?」


「あの、今さらこんなこと聞いてほんとに馬鹿なんですけど、そもそも、結婚がよく分かって無いという有り様で。」


真面目に質問したのに「俺も結婚したことないからよく分からないよ」と笑われた。


「分からないなりに想像すると、ポイント・オブ・ノーリターンかな。二人の関係を、後戻りできない状態に導くこと。」


後戻りできない。ポイント・オブ・ノーリターンを越えるということ……。


「離れていても、近くにいても、お互いの存在を近くに感じられる。24/365、且つ無期限。

そういうのが結婚なんじゃないかな」
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