秘密の会議は土曜日に
「……ということが、ありまして。」


「それなら今はメイクしてるんだ。写真送って」


家に帰ると宗一郎さんからの着信が何度も入っていたのでかけ直した。今日あったことを話して、研修に参加できるように手配してくれたことをお礼したら、宗一郎さんの関心は思わぬ方向に行ってしまった。


「無理です!」


「俺が知らない顔を、他の奴には見せるんだ」


拗ねたような宗一郎さんの声に押し切きられて、結局はテレビ電話で通話を繋ぎ直す。


「可愛いな。俺がいない間にまた綺麗になるなんて卑怯」


「が、画像データが乱れているんでしょう、不安定なネットワークですね!」


携帯画面の向こう側で、宗一郎さんが困ったように笑う。画面には高級そうなホテルの部屋と、スーツ姿の宗一郎さんが写っていた。時差があるから、窓からは明るい日差しが差し込んでいる。


「……宗一郎さんは、やっぱりきちんとお化粧してる人の方が好きですか?」


「そうじゃない。いつもの理緒も好きだよ。

違った表情を見せられると、俺が独占しないと気が済まなくなるだけ。」



モニタ越しに真っ直ぐな視線を向けられて、見る間に顔が赤くなる。


「あ、あのっ」


「高柳さーん、そろそろお時間です」


インターフォンの音と共に、永田さんの声が聞こえた。宗一郎さんは「今行く」と声をかけ、スーツのジャケットを羽織る。


「おやすみ、理緒」


小声で告げられた後、通話が切れた。宗一郎さんはこれから永田さんと一緒に仕事なんだ……。


フワフワと沸き立った気持ちに水をかけられたみたい。こんなことで落ち込んでみっともない。そう思っても、しばらく座ったままぼんやりして、何もする気が起きなかった。
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