秘密の会議は土曜日に
「あ、顔が女子っぽくなった。おもしれー」


「鴻上くん、昨日の講座は期待してたのと全然違ったんだけど!」


「いや、間違いなく一番有意義なのを選んだぜ。底辺を這ってる女子力向上に一役買ってやったんだ、しっかり学んどけよ。

これで怖いおねーさんにマウンティングされずに済むんだからな?」


鴻上くんに抗議しても、「ふっふっふ」と笑うだけで取り合ってくれない。


毎日、ベースメイクから、眉、アイメイク……と緻密な講義は続き、金曜には私でもなんとかお化粧できるまでになった。





「……今日もまた違う顔だね。よく見せて」


「今日はリップメイクを習って、これで完了です。慣れないことばかりで疲れました。」


宗一郎さんとの電話は画面付きにするのが通例に変わっていた。


「あの、マムシがっ」


「マムシ……?」


「ええと、斎藤道三は美濃のマムシと呼ばれており……」


「あははっ、急に歴史の話?」


「いえ、歴史じゃなくて……ごほっ」


「風邪引いたの?大丈夫?」


少し体がだるいけど、慣れないメイクなんて習ったからだと思う。


「けふっ……大丈夫です。」


「今日は早く寝なよ。また明日連絡するから」




土曜になると宗一郎さんのリクエストもあって、この前買って貰った休日用の服に着替えて電話を受けた。ショートパンツと背中が少し覗くニット。ついでなので習いたてのメイクもしておく。


「すごく可愛い、今すぐ会いたいよ」


「あ、の……」


宗一郎さんがいるニューヨークは夜なせいか、いつもより熱っぽい表情に顔が熱くなる。



「離れているのがこんなに苦しいと思わなかった。早く会いたいな」


「こほっ……宗一郎さん、いつもと違いませんか?」


「そうかもね、禁断症状出てる。理緒とキスできるまで治りそうもない」


「……ぁ」


いままでしてきたたくさんのキスの感触がフラッシュバックして、思わず体を抱え込んだ。


「嘘、キスだけじゃもう治まらない。帰ったら、理緒の全部が欲しい」


電話の声から体温や息づかいまで想像してしまって、体がざわざわと落ち着かなくなる。


「ん……やっぱり宗一郎さん変ですよ……お酒でも飲んでますか?」


「飲んでるけど理緒じゃないんだから、酒で豹変したりしないよ。素でこうなんだ。」


「あ……!


ごほっ……ごほっ。まさか変な飲み物飲んだりしてませんよね!?

まままマムシドリンクとか!」
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