秘密の会議は土曜日に
15 トモダチ
「げっ……どうしたんだよ、尋常じゃない顔色してんぞ?」
「はは……ごめん……寒くて。こほっ、こほっ。」
鴻上くんはスーツのジャケットを脱いで、「これでも無いよりマシ」と肩にかけてくれる。さらに私が持っている資料を取り上げて「これをやればいいんだな」とキーボードを打った。
「でもこれ、契約上うちの会社がやらないといけなくて」
「んなもん誰も見てねーよ。つーか、そんな状態でサーバメンテナンスする方がおかしいだろ。いくらお前も絶対ミスるぞ。」
静かな部屋に、カタカタとキーボードを打つ音だけが響く。その音を聞いていると少しだけ気持ちが落ち着いた。
「ごめんね」
「お前には借りが山ほどあるんだ。これくらいは持ちつ持たれつってやつだよ」
鴻上くんの後ろ姿を眺めているうちに眠くなり、少しだけウトウトする。
気がついた時には、パリッと糊の利いたシーツの感触がした。
「おー、起きたか」
「ごめん、寝ちゃってた?……ここは仮眠室かどこか?」
「いや、医務室。休みだから医者いねーけど。」
体を起こすと頭から冷たいタオルが落ちてきて、鴻上くんが処置してくれたんだとわかった。ここまで運んできてくれて、ずっと側にいてくれたんだ……。
「理緒、窓の外見てみ。まだ桜が残ってる。」
鴻上くんが指差す方向には、モコモコとした桜並木が見えた。もう暗くなった景色に淡いピンクがふんわりと浮かんで見える。
「上から見ると、ブロッコリーみたい。」
「何だよその感想は。きれいだね、とか言えねーの?こっちは少しでも元気付けようとしてんだけど。」
文句を言いながら、鴻上くんは笑っていた。
「花は綺麗だけど、あっという間に終わるんだもん」
家を出る前に見たバラの花束は、殆ど茶色くなっていた。その光景と電話の内容を思い出して、気がつけばまた頬に涙が伝っていく。
「一体、今日はどうしたんだよ……?」
「うぐっ……
必要とされてると思ってたの。代えのきかない存在だと勝手に思ってた。
……でも、それは私の勝手な思い込みで、本当はどうでもいいことだったんだ」
「それ、仕事の話?レンアイの話?」
「……両方。
ホテルの部屋に脱いだ靴が見えたの。華奢なヒールの靴」
目に焼き付いて離れないあの光景。説明すると、鴻上くんはぎゅっと目をつぶって息を吐く。
「全部、忘れろ。いいか、俺が全部忘れさせてやるから」
「はは……ごめん……寒くて。こほっ、こほっ。」
鴻上くんはスーツのジャケットを脱いで、「これでも無いよりマシ」と肩にかけてくれる。さらに私が持っている資料を取り上げて「これをやればいいんだな」とキーボードを打った。
「でもこれ、契約上うちの会社がやらないといけなくて」
「んなもん誰も見てねーよ。つーか、そんな状態でサーバメンテナンスする方がおかしいだろ。いくらお前も絶対ミスるぞ。」
静かな部屋に、カタカタとキーボードを打つ音だけが響く。その音を聞いていると少しだけ気持ちが落ち着いた。
「ごめんね」
「お前には借りが山ほどあるんだ。これくらいは持ちつ持たれつってやつだよ」
鴻上くんの後ろ姿を眺めているうちに眠くなり、少しだけウトウトする。
気がついた時には、パリッと糊の利いたシーツの感触がした。
「おー、起きたか」
「ごめん、寝ちゃってた?……ここは仮眠室かどこか?」
「いや、医務室。休みだから医者いねーけど。」
体を起こすと頭から冷たいタオルが落ちてきて、鴻上くんが処置してくれたんだとわかった。ここまで運んできてくれて、ずっと側にいてくれたんだ……。
「理緒、窓の外見てみ。まだ桜が残ってる。」
鴻上くんが指差す方向には、モコモコとした桜並木が見えた。もう暗くなった景色に淡いピンクがふんわりと浮かんで見える。
「上から見ると、ブロッコリーみたい。」
「何だよその感想は。きれいだね、とか言えねーの?こっちは少しでも元気付けようとしてんだけど。」
文句を言いながら、鴻上くんは笑っていた。
「花は綺麗だけど、あっという間に終わるんだもん」
家を出る前に見たバラの花束は、殆ど茶色くなっていた。その光景と電話の内容を思い出して、気がつけばまた頬に涙が伝っていく。
「一体、今日はどうしたんだよ……?」
「うぐっ……
必要とされてると思ってたの。代えのきかない存在だと勝手に思ってた。
……でも、それは私の勝手な思い込みで、本当はどうでもいいことだったんだ」
「それ、仕事の話?レンアイの話?」
「……両方。
ホテルの部屋に脱いだ靴が見えたの。華奢なヒールの靴」
目に焼き付いて離れないあの光景。説明すると、鴻上くんはぎゅっと目をつぶって息を吐く。
「全部、忘れろ。いいか、俺が全部忘れさせてやるから」