秘密の会議は土曜日に
皇帝閣下は私を怪訝そうに眺めている。


「絶対変だ。不必要なファイアーウォール張ってませんか?何かのトラウマでも?」


ファイアーウォールとはコンピュータを不正アクセスやウィルスから守る為の防御機能のこと。


確かに私は心に壁を張っているのかもしれないけど、それは私にとっては重要な砦だ。


「必要なんですよ。ファイアーウォール……」


私は過去の苦くて恥ずかしくて死にたくなるような出来事を思い出した。


トラウマなんて大層な話じゃないけれど、中学生の頃に同級生の男の子に告白されたことがある。名前は忘れもしない、鴻上颯汰くん。


鴻上くんは格好よくてスポーツも勉強もできて、すっごくモテてみんなの人気者って感じの男子だった。閣下と雰囲気が少し似ていたかもしれない。


身の程知らずなことに当時は私もその人のことが好きで、告白された時は嬉しすぎて涙を流した程だったんだけど……


『私も好きです』と言いかけたその時に、鴻上くんは


『ばっかじゃねーの。俺がお前みたいなネクラを本当に好きになるとでも思った?』


と言われ……次の日にはその事が学年中に知れ渡ったという黒歴史だ。


今考えてみれば鴻上くんの言う通り、私に告白してきた時点で冗談とわからなきゃいけなかったのに。



でもその件は私にとって貴重な経験だったと思う。世の中の男性が決して私のような人間に興味を持つことなどないと、中学生の時点で学べたんだから。


お陰で今の私は身の程を知り、異性に心を煩わさせることもなく平穏に過ごせている。その意味では鴻上くんに感謝しないといけない。
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