秘密の会議は土曜日に
「プロジェクトマネージャーなのですから、服装の指示は高柳様の権限の範疇では?」


「……理緒さんはプロマネを何だと思ってるんですか。そんな権限はありませんよ。」



ヒールのある靴の歩き方が分からないので、ひょこひょこと子供のように歩く。

会議の場所はすぐ近くなのに、こうやって歩くと果てしなく遠くに感じる。


「足、大丈夫ですか?」


「大丈夫でございますっ、あのっ、お手をお借りし大変申し訳ございません。」


「気にすることないですよ。俺は手を繋ぐ口実ができて嬉しいです。」


「ぐひゃ!? 高柳様は手が冷え性なのでございますか……?」


休日なので中央通りにはたくさんの人が歩いていて、誰もが素敵な雰囲気だ。

そんなお洒落なお姉さんたちも、高柳様を見ると驚いたように「イケメンだー!」と騒いでいる。やはり高柳様はそれほどまでに目を惹くお方なんだ。


ただし、一部にはヒソヒソとした笑い声も混じっているみたいで……。



「……でもさ、隣の女……」


「だよねー。ほら、よく聞くじゃん。結婚ちらつかせてお金要求するやつ。投資に失敗したー、とか言って。」


「……っぽいよね。あとは壺とか買わされたり?」



……そこのお二方、完全に聞こえております。

私に聞こえるということは当然隣を歩く高柳様にも聞こえているに違いなく、冷や汗をかきつつ謝罪した。


「もも申し訳ございません。私と一緒にいるだけで高柳様が結婚詐欺師紛いの扱いをされてしまうとは……。

あのお姉さんたちは、私たちが仕事中で打ち合わせ会場に向かうところだとは想定できなかったようですね。」


「不愉快ですね。」


「申し訳ございませんっ。私などと歩いているせいで高柳様に変な濡れ衣を着せてしまい……」


「違います。理緒さんがああいう暴言をさも当然のように受け取っているのが不愉快なんですよ。」
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