秘密の会議は土曜日に
「ぐげっ……!今のはノーカンに……」


「ならない。違反5回だからきちんとペナルティー受けて貰うよ。」


「うぅ……。」


これぞまさしく支配者といった雰囲気の笑みを浮かべた閣下を見上げて、背中に冷や汗が伝う。


「そう言えばペナルティーとは一体何を……?」


「俺の言うことを何でもひとつ聞くこと。今回はその前髪を切りなさい。」


その指令を受けて、顔がカッと熱くなる。相手が閣下だというのに思わず言い返してしまった。


「それはほんとに無理ですよ!人前に顔を晒して不愉快な思いなんかさせたくないんです。

宗一郎殿のような見目麗しい方にはわからないかも知れませんが……!」


「その思いに支配されてる限り、理緒はずっと壁の中。

本当は容姿が問題なんじゃない、自分の顔を否定する理緒が悪いんだ。」


「違います!ここに来る間だって、聞いてましたよね?

宗一郎殿の隣を歩くだけで可愛そうな結婚詐欺被害者だと思われるくらいなんですよ!?」


「あの人達から顔なんて見えてないでしょ、隠れてるんだから。

……そうやって誰からも姿を隠していてくれた方が俺個人としては好都合なんだけどね。」


閣下は今日も私の前髪を勝手にどけた。どういうわけか手を振り払うことも動くことも出来なくて、下を向いて消えかけたビールの泡を眺める。


「でも、人の視線に無駄に傷付く理緒は見てられない。だから髪の陰に隠れるのはもう止めておけ。」


閣下は私の髪を耳の上から後ろに流した。その動作を何度か繰り返す間、私は大人しい猫のようにただじっとしていた。


「そうだ、忘れてるようだけど。

違反はもう7回目だな。10回まで違反したらまた言うことを聞いて貰うから、気を抜くなよ。」


「えぇっ!?これ続いてたんですか……?」


「うん。今ので8回目。」


閣下はご機嫌な顔で生ビールを飲んでいる。


……そうだ、閣下と呼んだら怒られるんだっけ。宗一郎殿と名前を呼ぶのはどうにも恥ずかしくて落ち着かない。私は閣下の新しい呼び方をどうしようかずっと考えていた。
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