秘密の会議は土曜日に
ふらふらと会社を出て電車に乗る。


全力で取り組んだ仕事が、周りの迷惑にしかなっていないなんて。


仕事さえしていれば、私でもきちんと生きていけると思っていたのに。


本当なら今すぐ家に引き籠りたいけど、今日ばかりは美容院に行かなきゃならない。自宅の最寄り駅に降りると、一番始めに目についた美容院に飛び込んだ。



「ご予約は?」


「……すみません、してないです。」


「初めての方ですか?今日はどのようなご希望ですか?」


「女性の美容師さんなら誰でもいいので、髪を切ってください。」



有り難いことに若い女性の美容師さんの手が空いていたようで、すぐに席に通してくれる。


「お客さん、どんなヘアスタイルをお望みですかー?

……って、このアタマどうしたの?どうしたらこんなことになんの?髪の毛バクハツしてるんだけど!」


「爆発に巻き込まれてはおりません。

……業務上の理由でどうしても前髪を切らなければならなくて。できればこの洋服が似合うようになりたいです。」


閣下に頂いた洋服一式を紙袋に詰めて持ってきているので、美容師さんに見せる。今朝この洋服を持って家を出たときには、まさかこんな気持ちで髪を切ることになるとは思っていなかった。


「ほぉー、このブランド私も好きだよ!高くて滅多に買わないけどね。

お客さん、意外にハードル上げてきたねー。頑張ってみるから、取り合えずそこのトイレで着替えて来てよ。」


「着替えないとダメでしょうか?」


「当たり前でしょ」


かなり年下と思われる美容師さんにぐいぐいと手を引かれ、トイレで着替えを済ませる。
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