秘密の会議は土曜日に
「ぶっとくて真っ黒の直毛かー……。それに髪の量めっちゃ多いね!お化けの日本人形みたい。

あり得ないくらい痛んでるし、絶対髪乾かさないで寝てるよね。」


「……めんぼくないです。」


私の髪はドライヤーをあててもいつまでも乾かないので、いつの頃か髪を乾かす習慣はなくなった。乾かさなくても風邪なんか引かないと思っていたけど、髪が傷んでいたとは。


「ええーいっ、もう思いっきり行くよー!」


ざくっと首の横で髪を切り落とされて、30センチくらいの髪が床に落ちた。


「こんなに切るんですか?」


「ロングヘアーなんて、ちゃーんとヘアケアできる人しかやっちゃいけないの。」


肩の上でばつっと髪を切り揃えられたので、お礼を言って帰ろうとすると「これで終わりなわけないでしょ。」とシャンプー台に連れていかれる。


「そのばっさばさな髪をどーにかまともに見られるようにトリートメントするから、ヘアスタイル作るのはその後。

トリートメントが浸透する間に眉もスタイリングするからね。」


「なんと、昨今の美容院では眉毛まで切って下さるんですか……。」


「言っとくけど眉もトリートメントも別料金だからねー。」


頭に何かをぐるぐると巻き付けられ、私には選択の余地もなく美容師さんに眉毛を切られる。さらに石膏のようなものを眉の周りに塗りたくられた。


「痛だだだっ」


「もう、眉毛のワックスくらいでそんなに痛がらないでよー。お客さん学生?上京したてなの?」


「いえ、一応社会人でして。もうすぐ30です。」


「げ、10コ上?あり得ないんだけど!!もう良いトシじゃん。

ちゃんと可愛くしないと、子供のままお姉さんすっ飛ばしてオバサンになっちゃうよ!」


「仰る通り……」


美容師さんにお説教されながら眉を抜かれ、その後も途方もない時間をかけて髪のトリートメントが終わった。世の女性はこんな苦労をしていたとは、頭が下がる思いだ。


「さーて切るよ!かなり毛量調整しないとだね。」


さっきまでとは打って変わって美容師さんは繊細に髪にハサミを入れる。作業に集中しているのか美容師さんの口数は少なくなり、私は自然と今日の職場での出来事を思い出していた。


『肝心なとこで使えねーな。』


仕事ですら使えないなら、私の存在意義はどこにあるんだろう。


「うぅっ……。」


「やだ泣いてんの?そっかお客さん失恋か。」
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