秘密の会議は土曜日に
「こここ怖いんじゃなくて。……いや、怖いのかな?

あの、閣下はいい匂いがしますっ。…ああ何言ってんだろ私。嗅いですみません!

怖いっていうのは、私変な臭いしてないかなとか、距離が近すぎて閣下は気持ち悪くならないかなとか、心配事か山ほどあるから。」


閣下が少しだけ笑った気配がした。言わなくていいことを言ってるのは分かってるけど、どう答えたらいいのかはさっぱりわからない。


「変なこと言ってすみません、今、思うように頭が働かないんで!

強過ぎるお酒を一気飲みしちゃった時みたいな、胃が熱くて喉が苦しくて。こんな感覚になることってこれまで無かったから、どう言ったら良いのかも良くわからなくてっ。」


「可愛過ぎる発言に免じて今の敬語は許す。

……こうしてると酒に酔ったような気がするのは、俺も同じ。」


頭に閣下の顎が乗っているのか、声が直接頭に響いてくる。


「私なんかがゼロ距離にいても、閣下のご気分は悪くならないんですか?」


「気分悪くなるようなことを、わざわざするはずないだろ。

……閣下のご気分は、今とても良いです。俺がどうしてこうするか、わかる?」


「あ。


……今の!今のは閣下の違反!!1回目!」


「ぶっ……。意外とえげつないな、理緒。俺が大目にみたばかりなのに。」


閣下はひとしきり笑ったあとで、「おやすみ」と言って帰った。その背中を物影からこっそり見送って、大きく息を吐く。


気が付けば、会社を出たときの重苦しい気持ちは何処かに消えていた。
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