秘密の会議は土曜日に
その後は鴻上くんと話していたおかげで、パーティーで身の置き所に困るということもなくて本当に助かった。


本当は閣下に挨拶しに行こうと思ったけど、遠巻きに見えた閣下は重役っぽい人に囲まれていたのでやめた。考えてみれば、私とわざわざ話をするほど暇な人ではないのだ。


「GF2で、田中はどのグループなの?」


「ええと、計表解析グループで……うちの会社は凄く狭い範囲しか担当してないんだけど。

あ、今さらだけど私こういうものです。」


名刺を差し出すと鴻上くんは「田中に名刺もらうって変な感じ」と笑った。


「計表解析なら俺と同じ所属だわ。これからよろしくな。」


「それはそれは。よろしくご指導ご鞭撻のほど……」


「だーかーら、そういう堅苦しいのよせって。プログラミングなら、どっちかっていうとお前が俺の師匠みたいなもんだ。あの頃みたいにフラットにいこう。」



鴻上くんは、中学の時にコンピュータルームでプログラミングしてる私に色々と話しかけてくれたので、確かに少しだけプログラミングの方法を伝えたりしていた。


「あの高柳さんも言ってたろ、企業の垣根無く同じ一つのチームだって。」


「そう……だね。さっきのスピーチ、凄かったね。」


話しているうちに昔の感覚を思い出して、鴻上くんとは敬語を省いても話せるようになっていた。閣下には絶対同じようにはできないのに、どうしてだろう。


「あの人ね、炎上必至のデスマ案件を立て直した実績を買われて、うちにヘッドハンティングされたんだよ。

怖いけど実力あるし、かっけーよなぁ。」


デスマとは即ちデスマーチの略。死に向かって行くしかない不幸で過酷な進行のプロジェクトの比喩だ。いくら閣下とはいえ、デスマに巻き込まれていたなら立て直すまでには相当な試練があったに違いない。


「……怖いの?」


「そりゃーもう、皇帝だもん。

特に仕事に妥協する奴とモラルの低い奴には容赦ない。さっきも言ってたろ、下請けとか言って外部のベンダー叩く社員は許さねーって。」
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