秘密の会議は土曜日に
「今時はそういう取り締まりに厳しいって知らないの?」
はーっと溜め息をついてその人は言い放った。声の方向を向くと会議室の扉が半分ほど開いていて、見覚えのある私服姿の男性が立っていた。
さっきの人だ。雰囲気的に私と歳はそれほど変わらないように見えたけど、このオジサン相手に偉そうなタメ口で話している。
「はっ」
目の前のオジサンは弾かれたように席を立ち上がって深く礼をした。
「高柳さんっ。これはこれは、お耳汚しを失礼致しました。
もちろん契約破棄までするつもりはありませんが、協力会社様のレスポンス改善になればと思い、つい言葉が過ぎました。
これも全てシステムの安定稼働を守るため……」
かしこまって目の前の人にペコペコと頭を下げる。協力会社様って私のことだろうか?言葉が違い過ぎてイマイチ理解が追い付かない。それにこのお兄さんは一体何物?
社内の風紀取締り委員とか?
「システムの安定稼働と恫喝は関係ない。
契約を盾にとって脅すだけじゃなくて、大声で脅したり、物音を立てたり。
そういう下品な物言いがうちの株を下げるってとうしてわからないかな。」
「はっ。誠に申し訳ございませんっ。」
オジサンは敬礼でもする勢いだ。
「俺にじゃなく、まずはそちらの女性に謝るのが筋だよね?」
高柳さんと言われたその人が静かだけれど有無を言わせない声で言うと、オジサンは苦虫を噛み潰しまくったような顔で私にも頭を下げた。
「先程は、大変し、し失礼を……。システムの安定稼働を優先するあまり、つい」
謝るのが余程嫌なのか、言葉に詰まっている。
「このパワハラの件は後で正式に報告書をあげて。俺宛と、この女性の会社宛に。
それから、あなたは新規のプロジェクトからは外れて貰うよ。人格的に相応しくないから。」
「そ、そんな……」
オジサンは打ちひしがれたように顔を落とす。
「何度も言わせるな。
それからこのトラブル対応も俺が引き継ぐからもういい。
上へ報告できないって騒いでたけど、全部飛ばしてもう俺に報告済みってことでいいから。」