秘密の会議は土曜日に

9 高柳さんの忠実な下僕

土曜日になると、高柳さんに買っていただいた装備品一式を身に付けてご自宅に向かう。ヒールの高い靴にも少しずつ慣れてきて、前よりも歩き方が普通になった気がする。


今週の会議は、事前にご連絡頂いた場所から変更をお願いしている。

資料室での一件はよくわからないけど、高柳さんが土曜に秘密の打ち合わせを実施する理由についてはもう理解しているつもり。


『コトがコトですから、二人きりになれる環境が望ましいです。不躾なお願いですが、ご自宅にお伺いしてもよろしいですか?』


『それ、本気で言ってる?』


『私は冗談が言える性分ではございません。

こういった事には不馴れですが、鋭意努力いたします。』



玄関で靴を揃えて、高柳さんへの手土産……これはおそらく冷え性ぎみの高柳さんのために選んだ生姜饅頭の詰め合わせと、発汗入浴剤を手渡す。


「ありがとう、でも気を使わなくて良いのに。そこに座って」


「そういうわけにはいきま……いかぬ。

たかや……宗一郎さん、ありがと。」


口調と呼び名を土曜日用に変更したらカタコトになってしまったけれど、高柳さんは優しく微笑んでくれる。


明るく開放的なリビングのソファに腰掛け、淹れて頂いた紅茶を口に含んだ。


そして。


万全を持して自宅でプリントアウトした資料を手渡したところで、さっきまでは早い春の到来のように微笑んでいた高柳さんの目が据わった。



「これは……何?」
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