秘密の会議は土曜日に
「普通のやり方では理緒に通じないことはもう分かった。

分かりやすくエビデンスを元に話をしようか。」


エビデンス……この業界ではよく使われる、『証拠』や『論拠』を示す言葉。会議ではよく「エビデンスもなしに適当なことを言うな」とか怒られたっけ……。


高柳さんに連れられて区役所に行き、ぼんやりしてる間にまた家に戻ってくる。高柳さんはサラサラとペンを走らせて印鑑を押すと、茶色い紙面を私に手渡した。


「理緒が好きだ。好きだから結婚したい。」


「隙…だから血痕……!死体!?」


なんて恐ろしいことを、と高柳さんをと見上げると静かに「違う」と首を振っている。


「ここに書いてある文字は?」


「……婚姻届」


「そう、俺の分はもう書いてある。支障なければ残りを書いてほしい。」



半分埋まっている婚姻届が視界に入り、フリーズした頭がようやく回転を始めた。


「……はやまってはいけません!!

そんなことしたら私なんかが配偶者になってしまいますよ!?これ、公的書類ですよ?」


「それを望んでるんだ。

それから、今のは敬語だね。通算21回目の違反。」


「ま、待ってください、敬語かどうという話と同じ次元で言ってちゃダメですって。

ご乱心ですか!?

結婚詐欺はこういう証拠は残しちゃいけないんですよ?思わせ振りにほのめかすくらいじゃないと!」


「結婚詐欺じゃないから……。

それより、この婚姻届がエビデンスだ。返事は急がないけど、俺が理緒を好きだという気持ちはいい加減理解してくれない?」


婚姻届の上に置いた手に、高柳さんの手が重なった。この前は冷えていた指が、今は暖かい。


「少なくとも俺は、理緒と結婚したいくらい好きだ。」


「なななな何を仰ってるんですか。ほらこれ!高柳さんには変な女の恋人がいるじゃありませんか!私などに婚姻届を突きつけている場合ではありません。」


さっきプレゼンした高柳さんのお噂を集めた資料の「異性関係」欄をつついて訴える。
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