秘密の会議は土曜日に
高柳さんは資料をちらっと見て「確かに、変な女」と笑った。


「変な女だし、それに今の理緒はアンバランスで危ういね。」


私の肩に手を置いて顔を近付けるので、この前の資料室を思い出してドキっとした。前髪が高柳さんのさらっとした髪に触れて、おでこにフワフワした感触が走る。


「理緒は意地でも自分を女として認めないようだけど……。

どう見ても可憐にしか見えないから、前より危なっかしいんだ。

あまり心配ばかりかけるなよ。」


体に響くような低い声に何も考えられなくなっていたら、唇にふわっと柔らかい熱が宿った。


「!!」


血が沸騰するかと思った。今まで眠っていたシナプスの回路が一気に繋がるような感覚。


「今のは……」


「好きだ。もう分からないとは言わせない。

次は目を閉じて」


まるで催眠の暗示のような声に、言われるままに目を閉じる。

するともう一度同じように優しい柔らかな感触が唇に触れた。視界を絶つと余計にその感触ばかりに意識が向いてしまう。

それはさっきよりもずっと長い間続き、座っているのに全身を支えていられないほど手足が頼りなくなる。


そうか、だから肩を支えてくれているのかな。支えきれなくなった分だけ、体は高柳さんの側に傾く。


「伝わった?」


「……」


これがキスと言われる行動なのは私にもわかる。わかるけど、高柳さんが私なんかを好きだというのは天変地異にも等しい事態で頭がついていかない。



「まだ理解できないなら、わかるまで同じこと続けようか」


高柳さんはふわっと唇を押し当てて、そっと離した。角度を変えて何度も、何度も。


「……ん」


唇を触れあわせるだけでこんなに全身の力を奪われるとは知らなかった。それに、どこかに引きずられるような不思議な感覚。


「そんな顔もするんだ」


「……え?」


もう一度唇を触れあわせると、殆ど高柳さんにもたれ掛かるように上体が崩れる。それをぎゅっと受け止められて、余計に力が抜けた。


唇も腕も、その声も全部優しくて、イビツな私をそのまま包み込んでくれる。


もう全部限界だ。

心の中のパンドラの箱が空くのが分かった。


どうしてこんなに優しくてくれるの?恋なんかとは無関係に生きていくと決めたのに。私なんかがこの感情を自覚したらダメなのに……。



「好きだ。理緒が好き。分かった?」


「……ハイ」
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