秘密の会議は土曜日に
不思議そうに視線を向けられて、うぐっと固まった。本当は聞きたいことがあるけど、口に出すのが死ぬほど恥ずかしい。


「言いなさい、命令だ」


命令を言わせる命令とは理不尽な……。でも私は、高柳さんに指示を受けると従ってしまう習性があるらしい。


「あの、どうして私なんかを……その、好きに?なったのか教えてほしくて……」


モソモソと地面に向かって話したら、手を強く握られて「可愛い」と声が聞こえた。


「始めに会った時は、かつての自分と似てると思った。

トラブル対応を任されて、孤立無援で仕事して。やっと眠れたかと思えば仕事の悪夢を見て。

全部、俺も身に覚えがあるから。

こんなに小さな体で背負い込んでるんだと思ったら、助けなきゃという気がしたんだ。」



高柳さんほど仕事できる人でも、悪夢にうなされた事があるなんて……。

デスマーチのプロジェクトを立て直した時のことかな。似てると言っても、きっと私とは次元が違う仕事のはずだけど。



「でも違っていた。自分と似てるなんて思い上がりだった。理緒は誰とも似てないよ。

報われない仕事を打算抜きで全力でやってしまう。それも、一切の見返りも求めずにね。」


始めに会った時の、システムダウン対応のことだ……。思えばあの時、高柳さんに助けて貰えなかったら私はあの場面を乗りきることなんかできなかった。


「でも、」と続く声に顔を上げる。


「弱い心に蓋をして、仕事の仮面は付けられるけど、その内側は脆くて危なっかしい。それなのにエネルギーの固まりのようにも見えるから不思議なんだ。

だから、仕事の仮面を外した理緒がどうしても見たくなった。他の誰も知らない理緒を、ただ独占したいというのが本音かな。」


「う……うぐぐ」


仕事の話から急にそんなことを言わないで欲しい。油断して視線を上げた事を後悔する。


顔が赤いのは、夕焼けが上手くカバーしてくれてると信じたい。
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