秘密の会議は土曜日に
家の前に着いても、繋いだ手をほどこうとすると却ってぎゅっと握られて離せなかった。

指が絡んだまま手を持ち上げられ、お辞儀でもするように手の甲にキスをされる。


「結婚のこと、真剣に考えておいて。」


暖かくて柔らかくて、まるで宝物でも扱うような仕草。どうしても直視できなくて視線をさまよわせる。


「……えと、あの……」


「急がなくても良いから。

それから、来週の研修会は飲みすぎるなよ。余計な隙を見せないよう気を付けて。

俺はスケジュール合わなくて、参加できないから」

「それ、私は不参加ですよ?うちの会社が研修費なんて出すわけ無く……」


確か宿泊研修会が予定されていたけど、自分には関係ないと思ってろくに案内も見ていない。


「研修費はエヴァーグリーン持ちで全員招待してるけど。登録解除してないなら参加することになってるよ。」


「えぇ!?」


研修会、それ自体は別に嫌いじゃない。お給料を貰って勉強できるなんてラッキー、くらいに思う。

でも、泊まり掛けというのが不安になる。前に会社で似たようなことをしたとき、夜中にいつまでも続く飲み会が嫌でしょうがなかった。

男の人ばかりたくさんで、みんなが深酒する飲み会。想像するだけで憂鬱になる。終電が無いから飲み会を帰る口実もないのだ。


「どうしたの?何か不安?」


「そういうわけではなくて。だ、大丈夫です。」


いい大人になってまで、大勢での飲み会が怖いなんて子供じみたことを言うのは恥ずかしい。


どうにかその場を取り繕ってすぐに自宅に戻った。
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