秘密の会議は土曜日に
「そうだよね……」


鴻上くんの指摘にグサッと刺されたような気がしたけど、冷静を装って相づちを打つ。遠巻きに高柳さんを観察すると、ロビーで誰かを待っているようだった。



「まかり間違ってもお前はねーと思うし」


「私も本当はそう思ってるよ!?こんな気色悪いコミュ障はあり得ないって……!」


「そんな意味じゃなくて、取引先の女は面倒だから避けるんじゃねーのってこと。」


「そそ、そうなの?面倒なの?」


「そりゃそうだろ。何もなくても噂ばかり立つ人なのに、悪目立ちするような事をしたら周りに何言われるか分かんないじゃん。」


そうだったんだ……!!

それなら、土曜日のことが周りに知られたらエライことになってしまう!


……と内心慌てていると、鼻先に春風のような甘い香りが漂った。香りと共に華奢で綺麗な女性が目の前を駆け抜ける。


彼女は高柳さんのそばに駆け寄って折り目正しく挨拶を交わした。高柳さんは彼女の抱える大きな荷物に手を伸ばし、恐縮したように手を止めた彼女に構わず荷物を取り上げる。


二人で連れ立って歩き始めると、彼女のくるんとカールしたツヤツヤの髪が揺れた。足元は高くて細いヒールの靴。それは、私の足が痛くて履くに履けなかった靴と全く同じものだった。


こうして見ると、どこまでも絵になる二人。


「高柳さん付けの秘書、あの人はガチだよなー。」


「ガチって?」


「もうずーっと高柳さん一筋。仕事もきっちりしてるし、唯一可能性があるのはあの人くらいだって。」


高柳さんに秘書がいたなんて知らなかった。それも、あんなに綺麗な人。これから一緒にドコに行くのかな……。秘書なんだから仕事中はだいたい一緒にいるのかもしれない。


想像すると、頭の上に何個も大きな石が落ちてくるような衝撃を受けた。ゴロゴロと転がって私の醜さを何回も叩いてくる。


考えなくてもこの正体は知ってる。これは嫉妬という厄介なモノ。これまで無縁で生きてこられたはずの、黒い感情のカタマリ。


やっぱり、あのときパンドラの箱を開けてしまったのは間違いだったかもしれない。


箱の中に詰まっていたのは、私の人生から平穏を奪うもの。そして、知りたくもない惨めな気持ちを連れてくるもの。
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