秘密の会議は土曜日に
大急ぎで箱を閉じてしまいたくなるけれど、心の中で強く抵抗する何かが絶対に蓋を閉めさせてはくれない。


「ところで理緒、手に持ってるのはソコソコ恥ずかしい類いの本だぞ?カバーくらいしとけよ。」



「……あ。」


鴻上くんが笑って本を取り上げる。ぼけっとして本を鞄にしまうのを忘れていた。

タイトルは『飲み会で浮かないための100の方法』。さっきは気が回らなかったけど、この本を高柳さんに拾われたことが既に恥ずかしい事態だった。


「えーと、何々……『話し相手がいなくて困ったらとりあえず酒を注いで回れ』

何だこれ?こんなもん役に立つかよ。」


「鴻上くんみたいなコミュ力の塊の人には、私の悩みなんかわからないよ。」


研修会に備えて買ってみたものの、この本には「アドバイスを実行できるならそもそも悩んでないから!」と言いたくなるようなことしか書いてない。


「『下ネタには乗りすぎず、露骨に嫌がらず。機転を利かせて印象アップ』……

ってこれ、お前は絶対に機転を利かせられるタイプじゃないから無理すんなよ。」


「ラジャー。」


「こんなの読んで、研修会の飲みのこと気にしてんの?

数少ない女子なんだからフツーにしてれば、周りの奴らは喜んで話してくるだろ。」


甘い。甘過ぎるよ鴻上くん。


私はそんな楽観ができるような人生を送ってきてない。

飲み会で隣や向かいに私がいると気がついた男性が、「ハズレだ」的なため息をつくあの感じ。そういう扱いを受けたことが無いからそんなことが言えるのだ。

しかもその人たちは泥酔した頃にはやたらと説教をしてくるおまけ付きだ。

やれ、「女らしくしろ」「少しは身だしなみに気を使え」「それだからいつまでたっても恋人の一人もできないんだ」……などなど。


ああ行きたくないなー、研修会。


さっきの落石の衝撃に加えて、飲み会のことを想像すると心の中は憂鬱で埋め尽くされた。
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