秘密の会議は土曜日に
トイレから出ると、後ろからぐっと肩を掴まれて身を竦めた。急に触られるとびっくりするし怖い。


「さっきはごめんね?可愛い反応するからつい、からかいたくなっちゃって」


謝ってくれなくていいから、手を離してくれないでしょうか……と思ったけど言えなかった。仕事相手ですら、仕事の話を外れると言いたいことすらマトモに伝えられない自分が恨めしい。


「いえあのっ、人並みに機転も効かずにすみません。」


「機転?面白い謝り方するね。そんなの気にしなくて良いから、ここ抜け出して俺の部屋で飲もうよ。」


「それはちょっとまずいのでは……」


肩を掴む手には少しも力が入ってないように見えるのに、身を捩ってもびくともしない。


「誰も気付かないって。俺はこう見えて割と本気。

さっき、理緒ちゃんがキスのこと聞かれた時の顔がマジで可愛かったから。でも、想い出よりもっと感じるキスを俺が教えてあげる。」


浴衣の帯に手がかかって動けなくなる。背中の蝶結びが半分崩れて帯が垂れた。


「これを引っ張ったら、理緒ちゃん走れなくなるよね。人に見られたら困る姿になるかも。」


「……っ!」


「うん、その顔。もっとそういう顔見せて」



怖い嫌だ離して。


……どれだけ思っても声が上手く出ない。怖くて体も動かなかった。助けて、誰か助けて。せめて助けだけでも呼びたいのに。


誰か……





「閣下ぁーーーー!」


すがるように叫ぶと、お腹のあたりから激しい着信音が聞こえた。念のために帯に挟んでおいた仕事用の携帯電話だ。


「うわぁっ、緊急コールです!!

すみません、私行きます!」


まさかシステムダウンだろうか!?

シャキッと頭が切り替わり、その場を離れて電話に出る。今まで生きててこれほど緊急コールに感謝したことは無かった。
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