秘密の会議は土曜日に
「はい、田中です。」


「そのまま直進してエレベータで8階へ。降りたら左手に進んで突き当たりの部屋、『胡蝶』の前で待機。電話は切るな。」


てっきり、「メルトン情報の吉澤さんからお電話です」みたいな取り次ぎの連絡が来るのかと思ったら、まさかのスパイ風指令が飛んできた。


「ふへっ?何のトラブルですか?」


「いいから急げ」


謎の指令を告げる声は高柳さんによく似てる。

そう聞こえるのはさっき散々飲んだお酒が回ったせいかもしれない。これから緊急コール対応なのに大丈夫かな。VPN接続の操作すら怪しそうだけど……。


言われた通りの場所に辿り着くと、ひときわ豪華な客室があった。確かに『胡蝶』と書いてある。


ここで何の対応が始まるのかと待っていると、階段側の扉が音をたてて開いた。


現れた人影は……本当に高柳さん!?


「っ……はっ、無事?」


見上げると、高柳さんは肩で息をしている。こんなに慌てた様子は初めて見た。


「どうしてここに……?緊急コールは?」


「無事ならそれでいい……」


部屋の中に引き入れられて、痛いくらいにぎゅっと腕を回された。強く押し当てられた胸板から、ドクドクと心臓の音が伝わってくる。


高柳さん……。


高柳さんがいるからもう大丈夫。
もう怖くない、と思った瞬間に力が抜けていく。


「今日はここに来ない筈では……」


「嫌な予感がして予定を変更した。理緒はやたらと不安そうな顔をしていたし、君はそもそも男が苦手だ。男ばっかりの中にいるのは苦痛じゃないかって……。早く気付いてやれずにすまなかった」
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