秘密の会議は土曜日に
「助けに来てくれたんですか……」


気が抜けて畳の上にぺたんと座り込んでも、高柳さんの腕は離れなかった。


さっきの電話は、緊急コール用の回線を使ってあの場から逃げさせてくれたんだ……。

まさかここで会えるなんて思っていなかったから、気が緩むと泣きそうになる。


「ありがとうございます、私、大丈夫です……。」


「こんなの俺が大丈夫じゃない……。

どれだけ心配かけさせるんだ。」


私の体は高柳さんの腕の内側におさまって、少しの身動きもできないほど強く抱き締められている。


「仕事用のだけじゃなくて、自分の携帯も持っておけよ。全然連絡つかないから、こっちは焦って……」


「すみません、普段は持ち歩くんですが浴衣だと持ちづらくて」


「そうだよ、まず浴衣ってのが……どうしてそんな無防備な格好で飲み会に出るんだ。」


「そうですか?でもこれ、帯を引っ張られる前はちゃんと着れてたはずで」


「待って」と言った声は一段と低くなって、高柳さんは私の体の向きをくるっと変えた。不格好になった帯の蝶結びを点検するように手に取っている。


「これは男にやられたの?他に何された?」


「いやあの、相手の方に悪気はないと思うんですけど……」


言葉を濁しても高柳さんは「いいから具体的に」と引き下がらないので、さっきまでの経緯をぽつぽつと話した。


過去の性体験についての話題で盛り上がっている間、恥ずかしくて空気と化していたこと、私に聞かれても答られる経験をしていないとしか言えなくて、笑われたこと。

キスのことを聞かれてつい逃げ出してしまったら、肩や浴衣の帯を掴まれて強引に三次会に誘われたこと。急に触られて、動けなくて思わず叫んでしまったこと……。


「もう少しで襲われるところだったじゃないか……!」


「襲う……?

でも会社の集まりですし、まさか暴力に訴えるなんてことはないかと。

お互い会社員ですから金品を奪うとも思えませんし……」


「それを本気で言ってるなら、仕置きだ。」
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