窓のなかの世界
二週間前、アイツの家で飲んでいるとき。
気になる女の子に連絡先すら聞けずにウジウジグダグダしているアイツに苛立った私は、怒鳴って叩いてお説教して。
気が付けば、抱きしめていた。
それからどういう流れでキスをしてベッドに辿り着いたのかはよく覚えていないけれど、私が誘ったことは間違いない。
ヘタレのアイツに私に手を出す勇気があるとは思えないし。事実、事後のアイツの慌てようといったら、ここ一ヶ月で一番笑えたことだった。
ひとしきり笑ったあとはウジウジグダグダにプラスして、オドオドしていたアイツを必死でフォローして。
最終的には土下座でもしそうな勢いのアイツに、私と寝たんだから自信を持てだとか、自分でも意味のわからないことを言ってしまった。
……それにしてもよかった。
本当に、よかった。
アイツのあんな幸せそうな顔、私は見たことがないから。私ではアイツをあんな幸せそうな顔に出来ないだろうから。
だけど。
だけど、だけど。
私だって……
「本気だったんだけどなあ」
ぽつり、と誰にも聞こえない声で呟いたあと。
私は大量の紙袋と伝票を持って、勢いよく席を立った。
最後にちらりと見た窓には、二週間前の朝、私が帰るときに見たアイツの泣きそうな、なにか言いたそうな、それでいて少し安心しているような表情が浮かんでいた。
〜完〜