仮面のシンデレラ
どくん、と胸が鳴った。
チェシャは、震える声で言葉を続ける。
「僕、知ってたんだ…、この森に“真実を歌う笛”なんかないってこと…」
私は、黙って彼の言葉を聞く。
「ここが危険な場所だって、分かってた。…だけど僕は、アリスたちを止めなかった。…アリスが、エラの名前を語ったから。…僕は、それをどうしても認められなかったんだ…」
はっ、とした。
チェシャは、私を抱きしめる腕を離さない。
「だから、だからね…ちょっといじわるをするつもりだったんだ。アリスは悪くないって分かってたのに、僕はわざと森の奥に行かせたんだ。…それで、自分だけ森を出た……」
雨ではない雫を首筋に感じた。
温かい涙が、チェシャの瞳からポロポロ溢れる。
私は、ゆっくりとチェシャの背中に腕を回した。
ぴくん!
チェシャが体を震わせる。
「…チェシャ…」
「………。」
チェシャは、どこか怯えるように顔をうずめる。
そんな彼に、私は静かに声をかける。
「…私を追って…ここまで来てくれたの…?」
こくん、と頷くチェシャ。
泥で汚れた彼の服は、ところどころ裂けている。
チェシャの唇が、わずかに動く。
「……………ないで……」
(え…?)
ぽつり、と声が聞こえた。
ざあざあ降る雨の音に混じって、すがるような小さな声が届く。
「……僕のこと……嫌いにならないで……」
「!」