仮面のシンデレラ



チェシャは、再び涙が止まらなくなったように私に抱きついた。


「…ごめんね…ごめんね…!」


チェシャは、何度も何度もそう言った。

涙で肩を震わせながら、心の底から湧き上がる感情をぶつけるように。


「…ねぇ、アリス…」


嗚咽の合間に、彼は小さく呟いた。


「…この国にいる間だけでいいから…僕の側にいてよ…」


「…!」


「エラの姿じゃなくてもいいから…。僕の名前を呼んで、いっぱい撫でて…、一緒に笑って。…それから、それから…気が向いた時でいいから…」


チェシャは、私の首元にすり寄ってぽつり、と言った。


「……僕をぎゅってして……」


…ポツ…


雨の雫が、葉っぱをつたった。

通り雨が過ぎ、森がしぃん、と静まり返る。

雨が止んだ森で私を包むのは、生きている温かいチェシャの体温。

甘えるようにすがる尻尾が、私の体に触れていた。


「…うん、分かった。」


「…!」


ぴくん、と、チェシャが震える。

ふっ、と顔を上げる彼に、私は優しく微笑んだ。


「何回だって、抱きしめてあげるよ。…私でよければね?」


チェシャは、ぱちり、とまばたきをした。

最後の涙が頬をつたう。

彼の涙を指で拭うと、チェシャは初めて私に笑った。

それは、今までの笑顔とは違う、心からの感情だった。


< 102 / 250 >

この作品をシェア

pagetop