仮面のシンデレラ
チェシャは、再び涙が止まらなくなったように私に抱きついた。
「…ごめんね…ごめんね…!」
チェシャは、何度も何度もそう言った。
涙で肩を震わせながら、心の底から湧き上がる感情をぶつけるように。
「…ねぇ、アリス…」
嗚咽の合間に、彼は小さく呟いた。
「…この国にいる間だけでいいから…僕の側にいてよ…」
「…!」
「エラの姿じゃなくてもいいから…。僕の名前を呼んで、いっぱい撫でて…、一緒に笑って。…それから、それから…気が向いた時でいいから…」
チェシャは、私の首元にすり寄ってぽつり、と言った。
「……僕をぎゅってして……」
…ポツ…
雨の雫が、葉っぱをつたった。
通り雨が過ぎ、森がしぃん、と静まり返る。
雨が止んだ森で私を包むのは、生きている温かいチェシャの体温。
甘えるようにすがる尻尾が、私の体に触れていた。
「…うん、分かった。」
「…!」
ぴくん、と、チェシャが震える。
ふっ、と顔を上げる彼に、私は優しく微笑んだ。
「何回だって、抱きしめてあげるよ。…私でよければね?」
チェシャは、ぱちり、とまばたきをした。
最後の涙が頬をつたう。
彼の涙を指で拭うと、チェシャは初めて私に笑った。
それは、今までの笑顔とは違う、心からの感情だった。