仮面のシンデレラ
その言葉に嘘はなかった。
ウサギさんが何を抱えているのかなんて知らない。
今だって、本当は怖くて仕方ない。
だけど、彼は“本当の敵ではない”と、そう思えた。
「…甘いねぇ、アリスは。」
ウサギさんが、初めて人前で私をアリスと呼んだ。
苦笑したように表情を緩めたウサギさんは、コツコツとゆっくり私に歩み寄る。
…ぽん。
彼の指が、優しく私を撫でた。
「君は変わらないね。いいこいいこ。」
「??」
目を丸くしていると、オズがそんなウサギさんの腕を掴む。
「さ、わ、ん、な…!」
「あはは、ごめんごめん。」
その時、ウサギさんは、ふっ、と真剣な瞳をした。
「…僕は、“2度もエラを殺させない”。」
(…!)
一瞬だけ見せた顔は、今まで見たこともない“本当の彼”だった。
すっかり元の余裕を取り戻したウサギさんは、その場にいた全員に声をかける。
「…いいかい。今から言う“策”は、言わば“大博打”だ。成功すればオズ君はトレメインから解放され、ジョーカーの追っ手からも逃れられるが、誰かがミスをすれば、その瞬間すべてが終わる。」
ごくり…!
ウサギさんは冷静な表情で続ける。
「そして、この策の鍵を握るのは君だよ、アリス。」
(私…?)
彼を見上げた瞬間。
ウサギさんはいつもの不敵な笑みを浮かべて囁いた。
「…僕のすべてをかけた“賭け”に乗る気はあるかい?」